首都圏を狙う
中部電力などの新たな動き
現在の一連の電力市場の動きで興味深いのは、地域を越えた一般電気事業者(旧来の地域大手電力会社)同士の競争が促進されようとしていることである。特に当面は、東京電力管内での動きが気になるところだ。
最も積極的な動きを見せているのは中部電力である。中部電力は茨城県常陸那珂で東京電力と共同で会社を立ち上げ、火力発電事業を行う。また、三菱商事の100%子会社であるダイヤモンドパワーを買収し、首都圏などでの電力小売事業に乗り出すことを発表した。
首都圏での電力小売事業に手を挙げている一般電力事業者は、中部電力だけではない。関西電力も首都圏で小売事業を立ち上げるという発表を行った。福島の原発事故で自らが積極的に改革を進めざるを得ない東京電力、そして日本最大の電力消費地である首都圏ということで、東京電力管内が変化を先取りする地域になりそうだ。関西電力もその流れに遅れるわけにはいかないということで動いたのだろう。
日本の電力の周波数は、東日本は50ヘルツ、西日本は60ヘルツと異なっている。そして東西の間で電力移動を行うためには、周波数を変換しなければいけないが、その変換能力には大きな制約があった。結果的に、東西間の電力移動量は非常に少なかった。つまり東西間の電力は分断されていたのだ。
震災直後、首都圏や東北地方の多くの地域で停電状態が続いたのに、中部地方以西では煌煌と灯りがともっていた光景を覚えている読者も多いだろう。東で電力が足りなくても西から電力を送ることができなかったのだ。この出来事をきっかけとして、東西の電力が分断されているという問題に改めて世の中の注目が集まった。
首都圏の電力市場への進出は
大きなビジネスチャンス
一般電力事業者にとっては、こうした電力の分断は都合のよい面もあった。それは地域間の競争が制限されるということだ。もちろん理論的には、西日本のなか、あるいは東日本のなかで、一般電力事業者が地域を越えた競争を行うことも可能ではある。たとえば、同じ50ヘルツ帯のなかでの東京電力と東北電力、あるいは60ヘルツ帯のなかでの中部電力と関西電力というように、地域を越えた競争は可能だが、ほとんどなかったと言っても過言ではない。
そうしたこれまでの状況を念頭に置くと、60ヘルツ圏で活動していた中部電力が、積極的に50ヘルツ圏の発電事業や小売事業に参入しようとしているのは興味深い動きである。地域で独占を守ってきた一般電気事業者もその維持が次第に難しくなっていくと見ているのか、あるいは首都圏のような大市場への進出が大きなビジネスチャンスにつながると見ているのか――おそらくその両方なのだろう。