クックパッド社長 佐野陽光(撮影:住友一俊) |
きっかけはニューヨークで出会った、ある人物の“笑顔”だった。
その日、学生だった佐野陽光は、NGO団体の一員として国連の会議に参加していた。
並み居る世界各国の出席者たちのなかで、ひときわ輝いて見えたその人物は、モノが溢れる豊かさとはほど遠い、カリブ海の小さな島国の出身だった。
それまで、世の中を変えたいという一心で電気自動車やエネルギーを研究するなど、さまざまな取り組みを行なってきた佐野だったが、「彼は心から納得して、ハチミツを作ったりしていた。利便性の先に、彼のような笑顔はないと思ったんです」。
帰国後、自分はいったい何がしたいのか、あらためて考え続けた。「もっといい社会をつくろうと豊かさを追い求めてきたのに、なぜ日本には彼のような笑顔がないのだろう」。佐野は、日本でも彼のようなスカっとした笑顔を増やしたいと思った。
今、36歳の佐野は、料理サイトを運営するクックパッドの社長だ。同社のモットーは「毎日の料理を楽しみに」。料理を楽しくすることで、笑顔を日本全国に増やしていきたい。だから同社の料理サイトには、そんな仕掛けが用意されている。
食べた人に「おいしい」と言ってもらえたときに初めて、料理は楽しいと感じるもの。ユーザーは、自分だけのオリジナルレシピを写真付きで投稿する。その料理を作った別のユーザーが、「つくれぽ」と呼ばれるレポートをアップする。この「つくれぽ」が、レシピ投稿者への「おいしい」というメッセージになるわけだ。なかには、「つくれぽ」が約1500件に達するレシピもある。
現在、月間800万人もの女性が訪れるそのサイトには、レシピがじつに65万品以上も登録されている。料理サイトとしては世界最大規模だ。
20~30代女性ユーザーに至っては、551万人にも上るというから驚く。いまや、4人に1人の30代女性がクックパッドを利用しているのだ。
高い技術力で実現した検索機能へのこだわりとページ表示速度の向上
ユーザーの多くは、夕方4~5時の忙しい時間帯に訪れる。今日の夕食をどうするか、そのヒントを得たいのだ。
利用者の1人で今年9月に結婚した遠藤恵さん(28歳)も、帰宅は夜の8時を回るから、悩みの種は料理だった。
そんな折、かつて同じ悩みを抱えていたという会社の先輩からの口コミで、クックパッドの存在を知った。「帰宅途中、冷蔵庫の中身を考えながら携帯電話で検索できるから、本当にラクですよ」。