工場が売れないと決算発表できないほど追い込まれていたティッセン・クルップの最新鋭設備
写真提供:新日鐵住金

「昨日の敵は今日の友」──。新日鐵住金が、ルクセンブルクのアルセロール・ミタルと共同で、ドイツのティッセン・クルップから、米国のアラバマ州にある自動車用鋼板(薄板)の工場を買収することを発表した。折半出資の買収金額は、約1580億円となる見込みだ。

 かつて、旧ミタル・スチールの攻勢にさらされ、自らも買収対象にさえなったことがある旧新日本製鐵にとって、“恩讐”を超えてM&Aに踏み切ることになる。

 実は新日鐵住金がミタルと手を握るのは、2回目だ。

 旧新日鐵は1990年、米国北部のインディアナ州で旧インランドスチールと合弁会社を設立し、2工場(冷延鋼板、表面処理鋼板)を運営しているが、2005年に旧ミタルが旧インランドスチールを買収した。それ以来、ビジネスと割り切って両社の協業は続けられ、現在もフル操業中であるが、設備は老朽化している。

 一方で、今回買収するアラバマの工場は10年に稼働した最新鋭のものだ。新日鐵住金の樋口眞哉副社長は、「アラバマの工場は、既存のインディアナ州の工場にはない“熱間圧延”の設備を持ち、これまでより上工程からの加工(鋼材品質の造り込み)ができるようになる」と力を込めた。

 熱間圧延とは、高温で溶かした鋼を冷やして固めた半製品を加熱して熱いまま圧延する。対して、冷間圧延は、熱間圧延で製造した鋼板を常温で圧延して薄く延ばし、さらに加熱して状態を整える。

 1段階前の工程から始めることで、自動車の軽量化で要求水準が上がり続ける「ハイテン」(高強度の高級鋼板)を効率的に供給する体制が構築できる。新日鐵住金には、そんな“皮算用”がある。