新日鐵住金の君津製鉄所。自動車用特殊鋼材を生産する工場としては、室蘭、君津、小倉と計3カ所ある。だが、顧客や得意分野が異なるので、単純に一つにはできない
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 仮想敵は、韓国のポスコ──。新日鐵住金が3月13日に発表した経営統合後初となる中期経営計画(対象は2013年度から3年程度)。名指しこそしないまでも、東アジアの盟主の座を奪還したいとの思いが随所に透けて見える。

 その肝は、“コスト競争力の強化”を前面に出した構造改革案だ。15年度末を目途に君津製鉄所(千葉県)の老朽高炉を1基休止することや、和歌山製鉄所(和歌山県)の新型高炉の稼働延期など、国内外でベストな生産体制を組むための方向性が打ち出された。

 旧新日本製鐵にとって20年ぶりとなる高炉の休止だ。鉄鋼業界には衝撃が走ったが、友野宏社長兼COO(最高執行責任者)は「能力削減ではない。将来的に最適な生産体制を築くための施策であり、残った2基で減った量を補う」と強調する。全社的な能力を落とさず、より高い競争力が見込める設備に能力を寄せるなどして「15年までに世界最高水準の競争力を実現する」と力を込めた。

 ライバルとして念頭にあるのは、東アジアで最新鋭の設備群を誇るポスコであることは間違いない。

 もともとポスコは、1970年代初めに戦後賠償の一環として旧新日鐵などから技術導入して発足した。韓国政府の後押しや、近年のウォン安をてこに、粗鋼生産量で世界4位に成長した。経営統合で世界6位から2位に再浮上した新日鐵住金とは提携関係にある反面、自動車用鋼板などの分野では直接的な競合関係にもある。

 だが、ポスコの強さは規模よりもその収益力の高さにある。例えば、11年度の売上高経常利益率(会社全体の収益力を示す指標)は、ポスコが6.8%に対し、旧新日鐵が3.5%、旧住友金属工業が4.1%。これを改善せずして、新日鐵住金が東アジアの盟主に返り咲くことはあり得ない。