ケーブルTV最大手のジュピターテレコム(JCOM)をめぐるドタバタ劇が佳境を迎えている。

 発端は1月25日。KDDIが仕掛けたJCOMの買収だ。KDDIは米リバティ・グローバル社との相対取引でJCOM株の37・8%を買い取る算段だった。が、3分の1超の株式取得について、株式公開買い付け(TOB)の実施を義務づける金融商品取引法に触れる恐れがあるとして、金融庁が待ったをかけたのだ。KDDIは議決権の一部を凍結するかたちで、出資比率の引き下げを余儀なくされた。3000億円を超える大型投資にしてはあまりにお粗末な計画である。

 それでもKDDIの議決権比率は31・1%となり、JCOMの筆頭株主に躍り出ることに変わりはないため、今度は住友商事が応戦する。1995年のJCOM設立以来、実質的に経営権を握ってきた同社は「引き続き主導的な立場で経営関与を続けたい」(大澤善雄取締役)として、2月15日にTOBを宣言。最大1221億円を投じて、現在の出資比率27・7%を40%にまで引き上げる。

 メディアを中核事業に据える住商にとって、TV通販などコンテンツ事業のインフラ役となるJCOM抜きの戦略はありえない。

 そのため住商はリバティ社と1年以上にわたってJCOM株の買い取り交渉を続けてきたが、昨年末にリバティ社から交渉を保留したいとの申し出があったという。「そこで降ってわいたのがKDDIによる買収話で、そりゃないでしょうという思いもあった」と住商幹部は唇を噛む。

 とはいえ、保留中にリバティ社が別交渉を進めていたことは容易に想像がつく。今回は敵失に助けられたが、優先的な交渉権がありながら、リバティ社との着地点を見出せなかった住商の対応は後手に回っていたと言わざるをえない。

 煮え切らない“育ての親”の態度は、JCOM内部にも波紋を広げた。「住商はうちを売却するのでは」と疑心暗鬼になる社員も少なくなかったという。

 現時点では、住商が経営の主導権を握る公算は大きいが、今後は巨額投資の負担が重くのしかかる。リバティ社との直接交渉が合意に至らなかったのは、M&Aで勢力を急拡大してきたJCOMの成長スピードがここ数年鈍化し、新たな成長戦略が描きにくいなかで、1000億円規模の大型投資に二の足を踏んだからにほかならない。

 一方、JCOMが持つ327万世帯へのアクセス回線を取り込んで、NTTに対抗したいKDDIは、住商との協力関係の構築を模索する。両社の方向性は異なり、住商側には不信感も燻るが、新たなシナジーが期待できる放送と通信との融合は、住商のメディア事業にとっても今後の生命線となる。

 KDDIとの妥協点を探りつつ、投資額に見合うシナジーを生み出せるか、住商に突きつけられる課題は多い。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 山口圭介)

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