学校と家庭が、お互い疑心暗鬼になっている
松田 逆にご苦労されたこともあると思うんですが。
乙武 それを話したら一晩かかります(笑)。それは冗談としても、今って学校側は親やマスコミなどからクレームが来ないよう、かなり守りに入っているという側面があると思います。
たとえば、私が赴任した学校では小さいながら田んぼがあったので、5年生になると田植えを体験できるんです。ところが、事前に学校から「田植えをするので、いらなくなった靴下をもってきてください」という通知があるんです。「え、裸足でやるんじゃないの?」と思いますよね? これは、「もし万が一、ガラスの破片などが田んぼの中にあってケガをしてしまったら問題になるから」という学校の配慮なわけです。
松田 何かあったら、各方面からいろいろと一斉にバッシングされると思うからですよね。
乙武 でも、田植えって、田んぼのぬかるみに入って、「なかなか足が抜けない」とか「泥って、ぬちゃっとしていて重たい」とか、お米を作るのってたいへんだな、と感じさせる、そういった経験をする貴重な機会ですよね? 足がない僕がいうのもなんなんですが(笑)。問題が起こらないよう配慮するあまり、子どもが様々なことを経験する機会を奪われてしまっているという残念な現状があるんです。
松田 確かに……。
乙武 今、学校と家庭が疑心暗鬼になってしまっているように思うんです。でも、本来はパートナーでしょう。目の前の子どもをよりよく育てるための共同体なんです。
家庭だってそうじゃないですか。父母の仲が険悪だったり、いがみあったり不仲だったりしたら、子どもに悪い影響がある。それと同じで、今こそ、学校と家庭、教師と親が信頼関係を取り戻さないといけないんだと思います。何かトラブルがあったときに「学校が悪い」とか「家庭に問題があった」という犯人捜しに終始してしまう状況だけは避けないと。