「教育」。今、これほどまでに重要性が叫ばれ、注目されている分野はない。だからこそ、ぜひ教師という職業に注目してほしい、そう語るのは公立小学校で3年間、教師経験のある乙武洋匡さん。そして、同じく体育教師として中学校へ赴任、陸上部を率いた経験もある教育系NPOの代表である松田悠介さんのお二人による教育対談。子どもたちへの教育を通して感じたこと、これからの課題などを語っていただいた。(この対談は12月12日に東京:インテリジェンス本社にて行われた講演会を元に、編集・構成しています)
出会いのキッカケはツイッター
松田悠介(以下、松田) 私が代表をつとめるティーチ・フォー・ジャパン(=TFJ)では、今年(2013年)の4月から、学校に先生を2年間送り込む「ネクスト・ティーチャー・プログラム」を実施しています。来年(2014年)の4月には次の第二期生が誕生するのですが、今回はその募集の説明会を兼ねた対談に教師経験もある乙武洋匡さんをお招きし、教師というキャリアの魅力についてお話していただこうと思っています。よろしくお願いします。
乙武洋匡(以下、乙武) こちらこそ、よろしくお願いします。そもそも、僕はツイッターで松田さんのことを知ったんですよね。2年前に、原発事故の調査委員会委員長を務めた黒川清さん(東大名誉教授)がツイッターで何度かTFJについてつぶやいていて、興味を持ったんです。それで調べてみたら、「これはすごくおもしろい団体だ!どんな人がトップをやってるんだろう…」と思ったら、僕よりも7歳も年下の若者が代表だと知って、ますます興味が。ぜひ話を聞いてみたくなって、僕から連絡して都内のカフェで初めてお会いしたんですよね。
松田 僕は、昔、『五体不満足』を読んだことがあったのですが、そのときにまさかその著者の乙武さんと、こうして同じ舞台に立ってお話することができるなんて思いもしなかった、と感慨深いです(笑)
ではまず、私が代表を務める団体、ティーチ・フォー・ジャパンがやっていることについて、簡単に説明させてください。私たちは子どもたちへの教育支援を行うNPO団体です。
学生や社会人など優秀で情熱がある人材を選抜し、厳しい状況にある子どもたちのもとへ送っています。基本的には各地域の教育委員会と連携をとり、その受け入れ先の地域の学校で、教師として働いてもらいます。
この仕組みは、いじめなどをはじめ、貧困による学力低下の問題、家庭と学校の関係など、今、多くの人たちが感じている教育の問題を解決できる起爆剤になるのでは、と思っています。教育を通して社会を変えていきたいというのが活動の目標です。
僕自身、中学校でいじめを体験して、そこで助けてくれた先生のようになりたい、と体育教師になりました。でも、もっと多くの教育問題を一緒に変えていける仕組みと仲間が必要だと思い、教師を辞めて、その後、ハーバードに留学後、紆余曲折ありましたが、このNPOを立ち上げました。
教育を真剣に考える人たちを創出し続ける
松田 TFJが成功できると、私がそう確信しているのは、元の組織であるティーチ・フォー・アメリカ(TFA)が同様のプログラムを実施して、すでに実績をあげているからです。
TFAは、約20年前に女子学生だったウェンディ・コップによって立ち上げられた教育系NPOであり、大人気の組織となっています。ハーバードなどのトップクラスの大学生たちが殺到し、2010年にはグーグルやアップルをおさえて就職人気ランキング1位になりました。アメリカでも優秀な人材を集めて独自のトレーニングをし、困難校といわれている学校へ2年間、教師として派遣しています。
彼女が考えた事業モデルは、学力のアップや子どもたちの生き方に大きな影響を与え続けています。さらにその活動は世界各国に広がり、いまや32ヵ国でTFAのしくみが実施されています。僕は、教育は社会を変えられると本気で思っています。放課後支援や家庭支援などいろいろなアプローチがある中で、学校の場でのアプローチというのが効果があるのではないかなと思っていて、ぜひ多くのみなさんに教師になってもらいたいと。
そこで、乙武さんにご質問なんですが、実際に教師をおやりになったんですよね? その体験を少し聞かせてください。
乙武 はい、2007年の4月から3年間、杉並区高円寺の駅前にある杉並第四小学校という公立小学校で教員を務めていました。3年生、4年生を担任、非常勤としてではなく、フルタイムで働く正規の職員です。