毎日、生徒の家庭に電話をした

乙武 文句ばかり言っていても状況は改善しませんから、僕は現場の一教師として、親御さんとの信頼関係を築こうと思いました。実際に何をしたかというと、毎日のように家庭に電話をしたんです。

松田 ええ~、それは、親からすると驚きますよね。担任から電話がかかってくるなんて何かやらかしたんじゃないかと思って…。

乙武 そうなんです。たいていの親御さんが最初はそういう反応でした(笑)。でも僕が電話をしたのは、学校で子どもが頑張っていることを伝えたいと思ったんです。頑張って結果が出たことはあとで通知表に書けるけど、結果が出なかったことは書きづらいじゃないですか。

 たとえば「Aちゃんは、逆上がりの練習をとてもがんばったけど、できるようにはなりませんでした」とか「内気なB君が、ナントカ委員に立候補したんですが、結局落ちてしまって委員にはなれませんでした」とか…。

松田 確かに。

乙武 でも日々、子どもたちは頑張っているんです。だから保護者がそれを知らないのはもったいないな、と思って。だから僕の場合は、電話でそれを伝えようと思ったんです。最初はなかなか信じていただけなくて、ひとしきり僕がほめ終わると、「で、ウチの子は何をやったんでしょうか…」と、あくまで前フリとしか受け止めてもらえなくて(笑)。

 でも3ヵ月くらいたってくると、ちゃんと「この先生はほめるためだけに連絡してくれるんだ」とわかっていただけて、少しずつ信頼関係が築いていけたんです。もちろん、教師は電話をかけるべきだ、と言っているわけではありません。いろんな教師がいますから、いろんなやり方があっていい。それぞれが自分なりのやりかたで信頼関係を築いて、絆を取り戻してほしいんです。

 そうして信頼関係を取り戻すことができれば、学校側も過剰な要求やクレームなどに萎縮して、守りに入ってしまうのではなく、子どもたちの経験のためにこういったチャレンジをしてみよう、とかいろいろと主体的に動けるようになっていくのではないかと思うんです。

撮影:宇佐見利明
◎次回は12/25更新です。

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