早期の時点で、関係者や上司本人から、暴行の事実を聴取して証拠化(メモ、録音等)しておくことは、訴訟において重要である。のみならず、訴訟に至らない場合でも、証拠の有無及びその質を見れば、仮に判決に至った場合の大まかな落とし所が見えるため、交渉段階においてもこの結論を軸に着地点を探ることになる。したがって、暴行の事実に関する決定的な証拠は、訴訟外の交渉を有利に運ぶ上でも大きな武器になる。訴訟による解決を念頭においていない場合であっても、証拠収集を怠ってはいけない。

 特に暴行が継続的に反復して行われるような場合には、その日時、場所、前後の具体的なやりとり、同席していた者等を日記やメモに記載しておくことも有用である。記憶が薄れるのはやむを得ないとはいえ、裁判所は、曖昧な事実に基づいて事実を認定して判決を書くことはできない。

暴力上司が会社にとって便利な場合
会社が上司の味方をすることも

 損害及びその額に関して、治療費だけではなく、精神的な損害(慰謝料)を立証するためにも、暴行による怪我等の写真を残すことや、医師に診てもらうことをお勧めする。特に精神疾患や睡眠障害に至った場合、医師に診てもらうと証拠化しやすい。通院の日数は慰謝料の額を算定するに際して指標となるため、通院はきちんとすべきである。

 上司及び社員の雇用者である企業に対して損害賠償請求を行うためには、暴力が企業の事業に付随して行われること、企業が暴力を防止する注意を怠ったことが必要である。問題となった暴力に関連する事実以外に、当該上司が以前にも暴力問題を起こしたことがあったにもかかわらず企業がこれを放置した事実、当該上司以外についても暴力が問題になっているなど企業風土として暴力を用いた指導が行われている事実、ノルマ達成や教育のために社会通念を逸脱した指導が行われている事実等が、企業の責任を根拠付ける事実として主張される。

 他方で企業側は、パワハラ防止の研修を開催していたこと、暴力相談窓口を設置していたこと等が反論の際に主張されることが多い。

 暴力を用いてまで指導を行う上司は企業にとって熱心に部下を指導するという点で便利な存在であるが故、案外企業において評価されている場合も多い。したがって、暴行の事実が証拠上明らかでなく、上司自身がこれを認めない場合には、企業は上司と同調して事実を否認する対応をとることも想定される。

 他方、従業員に暴力を振るうことは企業イメージを損ない、特に刑事的な問題に至れば、企業の損害も大きいから、暴力の事実を上司自身が認め、又は、暴力の存在が証拠上明らかな場合には、企業は自身を守るために、調査の上、上司に懲戒処分を下し、当該上司に賠償を促す場合もある。企業の態度を決めるのは、暴力の事実を証する証拠の有無及び質なのである。

 他の社員(特に現職)に、企業に不利な証言を期待することは困難であるから、暴行の事実は極力客観的な証拠であることが望ましい。暴行が反復継続するようなケースの場合には、録音や動画を撮ることが可能であろうから、勇気を出して試みることをお勧めする。早期かつ有利に解決をする極めて価値の高い証拠になる。