飯田の嘆きである「全体像が見えない。この会社や日々の仕事など、理解ができないことがものすごく多い」といった言葉が出てくる背景には、こんな事情がある。

あうんの呼吸で繰り出される怒声
自らのミスは決して顧みない“上司”

 夏野もまた、社長と話し合い、この脆弱な体制に危機感を感じ取っている。そこでなんとか4人を育成しようとする。だが、人を育てたことがない。飯田など4人の社員たちに厳しく接するのは、本人は「育成のつもり」なのだろう。

 しかし、その「しごき」は場当たり的に思える。それぞれの叱責が細切れになっていて、1つにつながっていない。たとえば、「この仕事にはこんな意味がある。ポイントはこの部分だ。こんな具合にすると、スムーズに進む」といったような助言はない。

 しかも、丁寧に話し合う機会がないために、若手の4人からすると「ただのスパルタ」にしか見えないのだろう。(⑤)仕事の経験が浅いと、要領を得ていないから自信がない。それで厳しく叱ることを繰り返されると、ますます委縮するものだ。だが、夏野はそのようなところまでは気が回らない。本来は、夏野に部下の教育の仕方を教え込む管理職がいないといけない。

 社員6人のこの会社では、大企業のような体制にはおおよそなっていない。30代半ばで中途半端なキャリアしか持ち合わせていない夏野が、やりたい放題に20代を押さえつけることができる。

 飯田が、筆者が教鞭を執る専門学校に説明に来たとき、筆者が話を聞くと、このような一連の不満を持ち、悶々とする日々を送っているようだった。

 20代の4人の社員は、30代半ばの夏野を決して「ベテラン」や「優秀な営業マン」とは見ていない。飯田たちが見ていても、夏野にはミスは少なからずあるという。自分のミスは棚に上げて、4人を責め続ける。そこに4人の怒りがある。

 また社内の体制は、管理職を設けるほどまでには整ってはいない。6人のそれぞれの仕事の役割分担や、権限と責任は曖昧だ。この体制が、立場の弱い4人の社員たちを一層苦しめる。