マンション羅針盤 管理&売買#9Photo:PIXTA

1970年から80年代にかけて建設された日本最初のタワマン群が、続々と築40年を迎えている。通常のマンションであれば建て替えも検討すべき築年数となるが、タワマンの場合はそれも困難だ。ではどうするべきなのか。連載『マンション羅針盤』の第9回では、マンション管理士が近年の築古タワマンの生存戦略を解説する。(コネクトコンサルティング 代表取締役・税理士法人アイム会計事務所 社員税理士 大浦智志)

容積率消化による増床ができず、建替えには巨額コストが必要
70~80年代築のタワマンが迫られる「建替え以外」の選択肢

 埼玉県さいたま市、JR北与野駅前にそびえ立つ「与野ハウス」。1976年に竣工したこの建物は、高さ66メートル、21階建ての威容を誇る日本初の住居用タワーマンションとして知られています。与野ハウスをはじめとした、70年代から80年代にかけて建設された黎明期のタワマンは、現代のような標準規格が確立する前の、いわば「社会的実験」としての側面を強く持ち、かつて「未来の住まい」とうたわれたものです。これらの物件が今、次々と築40年から50年という老齢期を迎えています。

 これらは日本で初めて登場した、建て替えを視野に入れた検討を迫られているタワマンということになります。多くの所有者は漠然とこう考えているのではないでしょうか。「古くなれば建て替えればいい。駅前の一等地に立つタワマンなら、開発業者が手を挙げ、容積率の緩和ボーナスを使って無料で新品のマンションに生まれ変わる」――。残念ながら、それは昭和・平成の土地神話が生んだ幻想にすぎません。

 今のタワマン管理に突き付けられている現実は、もっとシビアです。多くのタワマンは建設時に「総合設計制度」などを駆使し、法的な容積率(敷地に対する延べ床面積の割合)を限界まで消化しています。つまり、建て替えによって床面積を増やし、余った部屋を売却して建築費を賄うという、一般的なマンション再生の「錬金術」が使いにくい構造にあるのです。実際に、与野ハウスでも過去に建て替えが検討されたといわれていますが、一部報道等によれば、多額の自己負担額や仮住まいの負担が壁となり、計画の見直しを余儀なくされたとのことです。

 タワマンが老朽化したら、どうなるのか。前述した理由から建て替えという選択肢は現実的ではありません。建て替えありきではない、既存ストックの価値を維持し続けるための「延命」と「代謝」の戦略。それこそが、今全てのタワマン管理組合に問われている経営課題といえます。

 現在築浅のタワマンにお住まいの皆さんの将来にも関係する、築古タワマンの生存戦略とは?次ページから、首都圏と関西圏の具体的なマンションの事例を挙げ、ケースごとにじっくりと読み解いていきましょう。