百貨店が、事業の柱となる衣料品部門で、商品政策と収益構造の抜本的見直しを進めている。昨今の消費者の価格志向に合わせて低価格ブランドの導入を進め、アパレルメーカーの出店条件を引き下げる動きを強めているのだ。
一般的に、百貨店はメーカーが出店する場合、売り上げの30~35%を賃料として徴収する。それに対し、駅ビルなど台頭するショッピングセンターでは、歩率(マージン)は百貨店の半分程度。そのぶん、同じような品質の商品を割安で販売することができ、消費者の支持を集めている。
この状況を見て「百貨店は高価格に寄り過ぎた」とし、売り場の改革を大きく打ち出してきたのがJ.フロント リテイリングの奥田務社長だ。閉店したそごう心斎橋本店の建物を、新館として11月から活用する大丸心斎橋店には、「価格の幅を広げるため、低価格帯の駅ビルブランドなども一部導入する」(J.フロント)。
じつは、こうした動きを取るのはJ.フロントだけではない。
大手アパレルメーカーのワールドでは今年の春夏商品などで順次歩率の引き下げを果たしており、いまや「そういう(取引条件の緩和をのむ)動きがない百貨店のほうが少ないくらい」だと話す。
そして、秋以降の商品では、この動きはますます拡大する見通しだ。「百貨店の現場の部長クラスでは、たとえ歩率を下げて利益率を減らしても、割安ブランドを導入し、売り上げ点数増と新規顧客開拓で利益を確保していきたいというのが共通認識となっている」(メーカー関係者)。複数の大手百貨店から、5~10%歩率を下げた条件を提示されるメーカーは増えている。
ただし、売り上げ低迷とコスト高で苦しむ百貨店を相手に、すべてのメーカーが歩率を引き下げられるわけではない。
「歩率の折衝だけすると、百貨店との綱引きになってしまう。歩率引き下げを実現するには、それを納得させる商品を先に作り、価格とともに提示する必要がある」(業界関係者)。そのためには、メーカー自体が“安かろう、悪かろう”の意識から脱却し、在庫圧縮などで新規投資の原資を生み出す努力が必要だ。
メーカーは、百貨店の戦略転換を商機と見て、これに対応する商品を開発・提案していけるか。百貨店の復権は、メーカーの変化のスピードにも大きく依存している。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)