佐々木 著書にも書かれていましたが、日本酒に含まれる糖質の割合も、ご飯の8分の1と、焼酎と比べてもさほど高くないんですよね。

桜井 (糖質を含む炭水化物などの摂取を抑える)糖質制限ダイエットが流行ったことで、米を原料とする日本酒は目の敵にされますが、糖質の含有量は少ないんです。糖質ゼロだからとダイエット時に奨励される焼酎のほうこそ、日本酒やワインのような醸造酒を蒸留してより精選して作られるぶん、体内吸収が早く血糖値の制御が効きにくいので、沢山飲んでも大丈夫、ということにはならないはずです。

佐々木 酒に限らず、テレビ番組などでは盛んに、「納豆が○○にいい」「トマトが○△に効く」などと喧伝されがちです。つい先日も「ショウガや毛細血管を修復する作用のあるシナモンを、牛乳に入れて飲むといい」と推奨していましたが、それを続けて摂取したからといって、吸収量を考えると劇的な効果が期待できるはずがありません(笑)。結局、大切なのは摂るものの“バランス”であって、日本酒を少々たしなみながらでも、素材の持ち味を活かした薄い味つけの食事を習慣的に食べるようにしたほうがはるかに健康的だし、日本人にはそのほうが向いていると思います。

日本酒という文化を自問しながら<br /><獺祭>は新時代の賭場口に立っている旭酒造の桜井博志社長

桜井 日本人と比べて海外の人たちは「偏食に強い」ですよね。酒蔵に欧米から泊まりがけで研修にくる外国人が多いのですが、たとえばランチはジャガイモをつぶしたものだけ、それも連日それだけ食べていても体調が悪くなったりしないのです。若さもあるでしょうが、「それでも、身体が壊れないのだな」と驚きました。日本人が同じことをやったら、長くはもたないでしょう。朝食からバランスよく食べるというのが、昔ながらの日本人の習慣ですから。

佐々木 たとえば、伝統的なヌーベル・キュイジーヌが出てくる前のガッツリしたフランス料理なども、当時のヨーロッパ旅行中に体力をつけるための、いわゆる「旅籠料理」だったといいますが、文化や体質面の違いが食生活に表れますよね。

“振る舞い酒”をただ貪るのでなく
親しい人と楽しむために飲む時代

佐々木 そういう食文化の異なる海外に日本酒を売っていく難しさは、並大抵ではないと思います。それに関して桜井さんの著書で特に印象的だったのが、海外展開における哲学です。「日本酒という日本ならではの文化を、海外向けに最適化するのではなく、国内で作って愛されている内容をそのまま受け容れてもらえなければ意味がない」という指摘は、非常に重要です。

桜井 これは、東京進出のときと同じ思想です。
 約30年前、山口県内の市場では完全な負け組と化し、地元の酒屋さんにまったく相手にされなくなったことから、私はまさに背水の陣で東京を中心とする全国区への進出を図りました。小規模な仕込みでなければ造れず、少量ずつでも愛され続ける最高品質の純米大吟醸酒であれば、どこでも売れるはずだ、と思ってやってきたのです。