日本最古かつ最大規模のオーケストラである東京フィルハーモニー交響楽団は、2011年に創立100周年を迎えました。東日本大震災のために中止した楽団史上初のワールド・ツアーをこの3月に改めて実施します。奇しくも3月11日のニューヨーク(アメリカ)公演を皮切りに、マドリッド(スペイン)、パリ(フランス)、ロンドン(イギリス)、シンガポール、バンコク(タイ)と、地球を一周しながら6カ国を回ります。ティンパニ奏者の出身で、楽団員をまとめ運営を取りしきる東京フィル専務理事・楽団長の石丸恭一さんにワールド・ツアーの狙いや公演内容の詳細、将来に向けたオーケストラ運営のあり方などについて聞きました。(聞き手:ダイヤモンド社論説委員・坪井賢一)
――「ワールド・ツアー2014」(表1)は欧米アジアを巡る大規模なものですが、開催を決められた背景から。
2011年に創立100周年として計画していたワールド・ツアーは、3.11の東日本大震災のために中止しました。その後、この3年間でグローバル化が進むなか、日本文化を見直して発信しようという動きがますます高まっていますよね。日本文化に根付いた私たちのクラシック音楽を海外で今こそ問うてみたい、この機会をとらえて海外へ打って出たい、と思っています。
約150年前に日本に洋楽が入ってきて、特に『尋常小学読本唱歌』(1910)を皮切りに文部省唱歌が発行されてからは、日本独自の音階(都節や田舎節などの5音音階)に代わって「ドレミ」(西洋の7音音階)が定着しました。この100年は、東京フィルが名古屋の「いとう呉服店(現・大丸松坂屋)音楽隊」として誕生し、交響楽団へ発展した歴史とぴったり重なっています。東京フィルは日本の洋楽の普及とともに歩んできたわけです。そうした点を意識して、2011年度(100周年)の定期演奏会などをすべて日本人の指揮者とソリストで構成しました。
――ワールド・ツアーのプログラム(表2)は魅力的ですね。コンセプトは?
「踊り」です。「春の祭典」(ストラヴィンスキー、1913)と「ロメオとジュリエット」(プロコフィエフ、1935)はバレエ、「シンフォニック・ダンス」(バーンスタイン、1960)はジャズ・ダンスですね。邦人作品は、海外でも認められている黛敏郎さんがニューヨークシティバレエ団に依頼されて書いたバレエ音楽「BUGAKU」(1962)と小山清茂さんの「管弦楽のための木挽歌」(1957)ですが、海外のお客様向けに考えると、組み合わせ方が結構難しかったですね。
――西洋クラシックのチャイコフスキー、プロコフィエフ、クラシックの様式を破壊した「春の祭典」、ジャズを取り込んだバーンスタイン、日本の伝統的な音律と音階を混ぜた邦人作品の組み合わせは刺激的です。メインの「春の祭典」は大編成の東京フィルならではの選択です。
20世紀の代表曲ですよね。約130人編成ですからとにかく大きくて、東京フィルが全員でツアーに行くからできる曲です。
――ロンドンとバンコクでバーンスタインの「シンフォニック・ダンス」(「ウエスト・サイド物語」より)を演奏するのに、ニューヨークではプログラムに入れないのですか。
各国の主催者によって演奏曲は異なります。ロンドンではカドガン・ホール(ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地)のコンサート・シリーズの一環ですので、先方の要望を踏まえています。バンコクも国王主催の招待ですので同様です。つまり、「シンフォニック・ダンス」はロンドンとバンコクの要請なのです。マドリッドは「日本スペイン交流400周年事業」の一環として呼んでいただいています。東京フィルが主催する3都市(ニューヨーク、パリ、シンガポール)はこちらが主導して決めました。