誰にでも、運命を決める一日というものがあります。

 もしも、その日にあの出来事が起こらなかったならば、あの人に出会わなければ、きっとその後の人生が完全に違ったものになったかもしれない、と実感する一日のことです。

 それは、本の一節や映画の一場面、さらにはテレビ番組の一断片かもしれません。特に、感受性が鋭敏で、常識に縛られていない若い頃は別格です。

 例えば、ビリー・ジョエル。1964年2月9日の日曜日。この日は彼にとって特別な一日になったのです。ちょうど半世紀前の今週です。 

 と、いうわけで、今週の音盤はビリー・ジョエルの「ピアノ・マン」です(写真)。

若き日の自画像

 ビリー・ジョエルは今や押しも押されもせぬ、米国音楽界の重鎮です。

 しかし、『ローマは一日にして成らず』です。ビリー・ジョエルが世に出て大きな成功を掴むまでは、決して一筋縄ではありませんでした。そんな若き日々を描いた佳曲が“ピアノ・マン”です。

 “ピアノ・マン”は、ビリー・ジョエルが発表した第2弾アルバム「ピアノ・マン」のタイトル曲です。ここには、市井の人々が集まるバーで、ピアノの弾き語りをやって日銭を稼ぎ、世間を見つめているピアノ弾き(ピアノ・マン)が描かれています。

 土曜日の夜9時にやって来る常連たち。ジントニックを飲む老人、映画スターを夢見る若者、小説家、海軍士官、ビジネスマン等々。政治学を学ぶ同僚のウェイトレスだっています。

 ビリーは、そんな人々の前で夜な夜なピアノを弾き、歌い、世に出るチャンスを待っていたのです。

 “ピアノ・マン”はビリー自身の若き日の自画像です。しかも飛び切りお洒落で切なくて美しいのです。若く無名なピアノ弾きが3拍子のハ長調で人々の夢を綴るのです。

 誰にでも夢はあるでしょう。