日本の科学技術を支える3つの装置

──そこまでニーズがあるなら、第二のSPring-8をつくるという計画はないのですか?

北川 東北地方に放射光を1つ新設するという話は出ています。

中山 日本としては世界一のものを再度考え、つくりはじめている印象があります。

北川 日本は、科学技術で世界に誇れる施設が3つあると思います。SPring-8は世界トップクラスの放射光施設です。スーパーコンピュータの「京」は2011年6月、11月の2期連続で世界トップを勝ち取った計算機です。それから茨城県の東海村にある J-PARCという中性子施設。これは震災の影響で現在ストップしていますが、立ち上がれば世界トップです。再稼働すれば、日本はもちろん、世界中の研究者が押しかけて実験することになると思います。

中山 昔はそのような施設の利用というと、物理系の研究者が素粒子の研究などに使っているという印象が強かったのですが、最近は企業の研究者や出口をしっかり考えているような研究でも利用できる素地ができてきていますね。いいことだと思います。

北川 日本のような国では、最先端の設備は絶対に必要です。技術で勝ち残っていく国として自国で絶対に持っておかないといけない施設というのがあって、その面で手を抜くと、いくら教育で頑張ったり、個別に多額の研究予算をつけたりしても、最先端大型研究施設がないと負けます。その面では日本には3つの施設が整備されているので、しっかりと成果を出し、それを社会につなげていくことが重要です。
 私の「元素間融合」という話は誰にもわかりやすい話ですよね。2つの元素を混ぜて真ん中の元素をつくり出すというシンプルなアイデアですから。こういう触媒の分野というのは、トヨタや日産が新機能の触媒を「使おう!」となったら、本当に早いですよ。結局、その触媒が耐久性、つまりどれだけの時間使えるかというだけの話になってくるので。われわれも当然、大学レベルで試験はやっていますが、企業では加速試験をして数万時間といった試験をクリアすれば、すぐに使えます。
 そこまで行けば、SPring-8に年間100億円かかっていても十分にモトが取れたことになるわけです。日本社会に対して、社会のためにそういう使い方をしているということを知らせることも重要な仕事だと思います。


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