ベンチャー企業の経営者として実務に携わり、マッキンゼー&カンパニーのコンサルタントとして経営を俯瞰し、オックスフォード大学で学問を修めた琴坂将広氏。『領域を超える経営学』(ダイヤモンド社)の出版を記念して、新進気鋭の経営学者が、身近な事例を交えながら、経営学のおもしろさと奥深さを伝える。連載は全15回を予定。
オックスフォード大学で取得した博士号
『領域を超える経営学』(ダイヤモンド社)も発売から約1ヵ月が経ちました。かなり真面目な本にもかかわらず、多くの方に手に取ってもらえていることに、とても大きな喜びを感じています。
さて、本書を上梓する際に多くいただいたのが、「その本はオックスフォード大学での博士論文の成果をもとにしているのですか?」という質問です。
結論から申し上げますと、違います。
オックスフォード大学での助手としての経験はもちろん活かされています。また、オックスフォード大学での研究生活がこの本の基盤となっているのは揺るぎのない事実です。しかし、私の博士論文は本書とは関連しつつも、より狭い領域を取り扱っています。
奇しくも世間では、もし報道が事実なのであれば、私をはじめ、人生をかけて博士論文を仕上げた人間たちを愚弄する行いをしていた人物が話題に上がっています。これはおそらく、個人の問題ではなく、構造的、組織的な問題なのでしょう。
極めて残念な事態であり、私のような人間だけではなく、ほぼすべての科学者がこの事態を深刻に受け止め、そして怒りを通り越した悲しみをもって事態を見つめているはずです。これはもはや当事者たる本人を責める以上に、こうした行いをさせるに至った状況の正確な検証が急務と考えてます。
実は、この事態を迎えるより1ヵ月ほど前から、今回は博士論文について書こうと思っていました。
当初は、現時点では未確定な情報も少なくないことを考慮して、トピックを変えるべきかとも考えていました。しかし、しっかりと議論すべきいい機会であることもたしかです。
そこで今回は、私が博士論文をどのようなものだと考えているか、そして、その論文で何を議論しようとしたのか、できるだけ簡潔に、さわりだけでも簡単にご紹介したいと思います。