2012年には開店からわずか1年強で、『ミシュランガイド フランス』で一つ星を獲得した「フランス レストラン ソラ」。吉武広樹シェフは「日本人であることのメリットのほうが大きい」と言います。『なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか』著者の本田直之氏による、インタビューの後編です。

パリで一つ星を取ることの意味

吉武広樹 シェフ Hiroki Yoshitake / Restaurant Sola 1980年、佐賀県生まれ。専門学校卒業後、「ラ・ロシェル」「ル・ピラート」で6年間の修業後、世界を放浪。2008年にパリで修業を始め、2009年 シンガポールに「Hiroki 88@Infusion」をオープン。パリへと戻り、2010年「レストラン ソラ」をオープン、2012年には開店からわずか1年強で、ミシュランで一つ星を獲得した。
レストラン ソラ / Restaurant Sola 12 Rue de l'Hotel Colbert, 75005 Paris, France  Tel +33 01 43 29 59 04 http://www.restaurant-sola.com/
 

 将来どうなりたいかというビジョンを固めることはもちろんですが、もっと大切なのは、そこから逆算して考えること。目指すべき道がわかることで、自分に必要なものが何かわかるからです。シンガポール時代に、彼が今やるべきだと感じたのは「星を取る」ことでした。

「35歳、40歳になったときには、自分の将来やビジネスのことも考えていかなければなりませんよね。そのために重要だったのが、パリでの一つ星。自分の価値を上げてくれることにもなるし、それがあるだけでビジネスのやりやすさがまったく変わってくるので。まずはパリで一つ星を取って、店をある程度うまく回るようにして、将来的にはまたシンガポールとか、別の場所にも広げていければと考えています」

 実は海外にはチャンスがある。これは、今回の書籍のためインタビューをした多くのシェフやソムリエが話してくれたことです。

「パリは世界遺産の街ですから、常に観光客が絶えません。レストランの絶対数が決まっているのもポイントです。レストランが閉まっても、その物件にはまた新しいレストランが入る。日本だったら数がどんどん膨れ上がるんですが、そういうことはありません。だからある程度以上の料理を出せば、どんなレストランでも毎日満席になるんです。最初の資本金が大きいから、急にレストランをやりたいと思っても、そう簡単にはできません。でも、一度信用さえついたら、次の店もやりやすい。そういった面でもパリはすごく魅力的なんです」

 パリには、権利を買わなければレストランを開くことができないという特殊なシステムがあります。日本のように、そのへんの住宅街で突然レストランを始めることはできないのです。もちろんレベルは高いけれど、競争率からすれば日本よりも楽かもしれません。
 しかも、現在は、日本人であることがデメリットになる時代ではありません。フランスで有名なレストランガイド『ゴー・ミヨ』などを見ても、続々と日本人シェフの特集が組まれる状況になってきています。

「10年、15年前は下に見られていたかもしれませんが、ステラマリスの吉野さんとか、ひらまつの平松さんとか、みなさんが日本人の地位を引き上げてくれましたから。今、僕たちのような日本人シェフは、すごく評価もされやすくなっています。逆に、日本人であることのメリットのほうが大きいと思いますね」