1979年、日米逆転の可能性を描き、世界的なベストセラーとなった「ジャパン・アズ・ナンバーワン」。著者のエズラ・ヴォーゲルはその27年後の2006年にインタビューに答え、中国研究を通して日本の未来にますます自信を深めたと語った。(「週刊ダイヤモンド」2006年11月11日号に掲載)

エズラ・F・ヴォーゲル
(Ezra F.Vogel)
1930年米国オハイオ州生まれ。日本の研究で世界に名を成した社会学者。政財界とのパイプは今も太い。ハーバード大学の教職から2000年に引退した後も、精力的に研究活動を続けている

 私が『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を出版してから早いもので27年の歳月がたちました(注:2006年時点)。振り返ってみても、あの頃の日本はすごかった。土光敏夫さん(経団連元会長)や松下幸之助さん(パナソニック、旧社名・松下電器産業創業者)、井深大さん(ソニー創業者)といった立志伝中の人物が存命で精力的に活動していたし、国全体に今とは異なる活気と自信が満ち溢れていました。

 じつをいうと、私は今、中国に長期滞在しています。“次はチャイナ”と言い出すのかと思うかもしれませんが、それは見当違いです。ここに住んでみて、私はある確信を得ました。それは、20~30年後にも、中国は多くの面で日本に追いつけないということです。

 まず中国には、能力の高い人材にイノベーションを促すようなきちんとした知的財産保護の法的基盤がありません。現状を考えると、整備にはまだ時間がかかるので、世界のリサーチセンターになるのはそうとう先のことでしょう。中国企業の国際進出も当面はさほど進まないと思います。そして、なにより中国人は米国人から見ても、会社に対する忠誠心が低過ぎる。転職は日常茶飯事で、これでは堅固な組織は望むべくもない。

 確かに、GDPの潜在規模でいえば、日本はかなわないし、ローテク分野も中国にほとんど持っていかれるでしょう。しかし、日本がその強みであるハイテク分野の競争力、堅固な組織、そしてなにより個々人が仕事への熱意を失わなければ、30年先にも非常に重要な“専門的役割”を世界経済において果たしていると私は確信しています。