12月5日、ECB(欧州中央銀行)の政策金利を決定する政策理事会が開かれる。日米欧の中央銀行の中でも、いまその去就が最も注目されているのがECBだ。なぜなら、景気と物価の低迷という“W”低迷に悩まされながらも、いまだ唯一「量的緩和(QE)」政策を採用していないからだ。FRB(米連邦準備制度理事会)は、10月29日にQE3(量的緩和第3弾)を終了。一方、日銀は10月末に前代未聞の追加緩和を発表した。QE3終了はユーロ安要因だが、日銀の追加緩和はユーロ高要因。W低迷に悩むECBとしては、ユーロ安が望ましい。11月の理事会では政策金利は引き下げたが、QEには踏み込まなかった。
 
さて12月はどうか。政策金利ではマイナス金利まで採用しており、残る手段はQEなどに限られている。だが、ECBが対象とするユーロ圏の国々は経済状況も財政状況も異なり、QEに踏み込みにくいという事情がある。それは何か。今年6月に「週刊ダイヤモンド」に掲載した記事「『日本化』するユーロ圏』が、そのあたりの背景と課題を余すところなく伝えている。これからのECBの行動を考える上で、非常に参考となるので、2回にわたってDOL上で再掲してお伝えする。

ECB(欧州中央銀行)が、長期停滞に陥る“日本化”のイメージ払拭に躍起になっている。バブル崩壊後の日本と同様、通貨高と低インフレの長期化に苦しんでいるのだ。

◆前哨戦◆

 海を越え、時を越えたユーロ圏で「バブル崩壊後の日本」について質問が出たのは、ECB(欧州中央銀行)がサプライズ利下げに踏み切った2013年11月7日のことだった。

「ユーロ圏の状況は、長いデフレを経験した当時の日本に似ているのでしょうか?」

 ドラギECB総裁は、どうやって“日本化”のイメージを払拭しようかと気をもみ始めていた。「いや、日本に似ているとは思っていない(No, I do not think it is similar to Japan)」と否定したが、記者陣の疑念は晴れなかったようだ。以降、毎月の理事会後の総裁記者会見で、同様の応酬がヒートアップしていくことになる。

円高不況を彷彿
最強通貨に躍り出たユーロ

 背景にあるのは、“経済の体温”ともいわれる物価の低下とユーロ高である。金融危機が去った後のユーロ圏は、日本型のデフレに陥る可能性が高まっているのだ。

「物価の安定」を使命に掲げる先進国の中央銀行には、日本の経験から「デフレは一度ハマるとなかなか抜け出せない」という恐怖感がある。しかしデフレは日本に特有の事例ではなく、経済の成熟した先進国が避けては通れない“先進国病”なのでは──。今や欧州、そして米国も物価低迷に悩まされているだけに、世界はそうした疑念に包まれつつある。

 翌12月。ドラギ総裁は、1990年代末から2000年代初頭までの日本と、現在のユーロ圏の経済状況がいかに違うかを強調。具体的には次の五つの違いがあると、とかく丁寧に説明した。

 第一に、ECBは迅速に金融緩和を実施したこと。第二に、大手銀行はECBの包括査定(コラム参照)を踏まえ、不良債権処理の前倒しが期待されること。第三に、民間債務は比較的速いペースで調整されていること。第四に、各国政府は財政を含む構造改革を進めていること。そして第五に、人々のインフレ期待は物価目標の2%で落ち着いている(デフレマインドは定着していない)ことだ、と──。

 それでも記者陣からの質問が鳴りやむことはなかった。14年4月までの半年間、必ず「日本化」懸念が俎上に載せられたのである。