さて12月はどうか。政策金利ではマイナス金利まで採用しており、残る手段はQEなどに限られている。だが、ECBが対象とするユーロ圏の国々は経済状況も財政状況も異なり、QEに踏み込みにくいという事情がある。それは何か。今年6月に「週刊ダイヤモンド」に掲載した記事「『日本化』するユーロ圏』が、そのあたりの背景と課題を余すところなく伝えている。これからのECBの行動を考える上で、非常に参考となるので、2回にわたってDOL上で再掲してお伝えする。
ECB(欧州中央銀行)が、長期停滞に陥る“日本化”のイメージ払拭に躍起になっている。バブル崩壊後の日本と同様、通貨高と低インフレの長期化に苦しんでいるのだ。
◆前哨戦◆
海を越え、時を越えたユーロ圏で「バブル崩壊後の日本」について質問が出たのは、ECB(欧州中央銀行)がサプライズ利下げに踏み切った2013年11月7日のことだった。
「ユーロ圏の状況は、長いデフレを経験した当時の日本に似ているのでしょうか?」
ドラギECB総裁は、どうやって“日本化”のイメージを払拭しようかと気をもみ始めていた。「いや、日本に似ているとは思っていない(No, I do not think it is similar to Japan)」と否定したが、記者陣の疑念は晴れなかったようだ。以降、毎月の理事会後の総裁記者会見で、同様の応酬がヒートアップしていくことになる。
円高不況を彷彿
最強通貨に躍り出たユーロ
背景にあるのは、“経済の体温”ともいわれる物価の低下とユーロ高である。金融危機が去った後のユーロ圏は、日本型のデフレに陥る可能性が高まっているのだ。
「物価の安定」を使命に掲げる先進国の中央銀行には、日本の経験から「デフレは一度ハマるとなかなか抜け出せない」という恐怖感がある。しかしデフレは日本に特有の事例ではなく、経済の成熟した先進国が避けては通れない“先進国病”なのでは──。今や欧州、そして米国も物価低迷に悩まされているだけに、世界はそうした疑念に包まれつつある。
翌12月。ドラギ総裁は、1990年代末から2000年代初頭までの日本と、現在のユーロ圏の経済状況がいかに違うかを強調。具体的には次の五つの違いがあると、とかく丁寧に説明した。
第一に、ECBは迅速に金融緩和を実施したこと。第二に、大手銀行はECBの包括査定(コラム参照)を踏まえ、不良債権処理の前倒しが期待されること。第三に、民間債務は比較的速いペースで調整されていること。第四に、各国政府は財政を含む構造改革を進めていること。そして第五に、人々のインフレ期待は物価目標の2%で落ち着いている(デフレマインドは定着していない)ことだ、と──。
それでも記者陣からの質問が鳴りやむことはなかった。14年4月までの半年間、必ず「日本化」懸念が俎上に載せられたのである。