ショッピング、出産、仕事……
香港で目立つ“中国人現象”

 2014年2月26日午前、香港の日刊紙《明報》の元編集長劉進図氏が自家用車を降りる際に正体不明の2人組に刃物で襲われ重症を負い、病院に運ばれた。現在に至るまで犯人は見つかっていない。事件の真相は闇に包まれたままだ。

 劉氏は今年1月に突然同紙編集長を更迭された。編集部内や香港社会で波紋を呼んだだけでなく、「香港が大切に守ってきた言論の自由に対する侵犯行為だ」というように、香港の体制や生態に関わる根幹部分にまで議論は発展した。なかには、劉氏の編集方針が中国共産党や親中的な政策を繰り返す香港政府に批判的で、それをよく思わない勢力が圧力をかけ、劉氏を失脚に追いやったという見方もある。

 2012年7月から香港の行政長官(香港の首長)を務める梁振英氏は、中国の胡錦濤前国家主席、習近平現国家主席とも“友好的”な関係を築いてきた一方、香港市民からは「中国に近すぎる」と広範に批判されてきた。1997年の“香港返還”以来、中国と香港の関係は日増しに“緊密”になっている。特に、ショッピング(ブランドものが関税高の中国よりもずっと安いから)、出産(香港で出産した子どもは自動的に香港永住権を獲得できるため)、留学・仕事(香港の教育システムは中国よりも先進的で、留学+仕事で7年間住めば永住権を申請できるため)などを目的に“南下”してくる中国人の数と勢いは凄まじい。

 2013年、人口700万人の香港にのべ5430万人が訪れた。このうち、中国人が占める割合は75%に上る。私もこれまでフェニックステレビ(鳳凰衛視)の番組、明報出版社での書籍出版、《亜州週刊》でのコラム執筆、香港大学での講演などを通じて香港言論市場と付き合ってきた。その地を訪れるたびに“中国人現象”を目撃し、考えさせられた。

 ショッピングモールは中国人で溢れかえっていた。香港の消費市場を支配しているかのようにすら映った。香港で生まれ育ったタクシー運転手たちは「普通語(中国で広範に話される標準語)が話せないと中国人相手の商売にならない」と嘆き、普通語のラジオ番組を聴きながら必死に語学の訓練をしていた姿がやけに印象的だった。

 なかにはマナーを守らなかったり、無意識のうちに秩序を乱す中国人観光客もいる。産婦人科病棟には次々に中国人妊婦が流れこんできて、香港市民が正常に出産するための物理的キャパシティーが不足に陥る事態が発生しているというニュースも耳にする。地位や報酬の高い職の多くが中国人エリートに奪われていく。

 実際、中国で学部を卒業し、イギリスで修士課程を終えた知り合いの中国人女性が働く外資系金融機関では、毎年二人の新入社員を採用しているが、近年は全員中国人が採用され、香港人ははじかれているという。私から見て、香港における金融、教育、メディアの三業界は、中国から流れてくる人材がいなければ成り立たなくなっている。