3月3日〜13日、中国北京では「両会」という一年に一度の政治行事が開催された。本年度の政策があらゆる統計やデータとともに公布され、それらが審議される「全国人民代表大会」(以下“全人代”)と民主党派や経済界・文化界などの代表者が一度に集結し、党指導部へ政策提言をする「中国人民政治協商会議」(以下“政協”)が同時進行で開催されることから「両会」と呼ばれる。
中国共産党指導部がこれからどのような政策を打ち出していくのか、そしていま中国社会ではどのような問題に関心が集まり、それらがどのように議論されているのかを理解する上で重要な“政治祭”であり、私たちにとっては、情報収集&国情分析という意味でも極めて重要な意味を持っている。
本稿では、「両会から見た中国民主化の現状」という問題を考えてみたい。中国の首都で毎年開催される政治のお祭りがどのように運営され、何がどう議論されているのかを検証することは、本連載の核心である「中国民主化」を考察する上でひとつのケーススタディになると考えるからである。
なお、本稿は「両会」を通じて提起・審議された政策や問題を具体的に検証することを目的とするものではなく、あくまでも「両会」という中国独自の政治システム(或いは枠組み)がどう機能していて、それが「中国民主化」という命題にどのようなインプリケーションをもたらすのかを考察するものである。
形骸化しているうえに
現状と乖離した全人代の職権
全人代から見ていこう。
全国人民代表大会は形式的には日本の国会に相当し、中国では“最高国家権力機関”と言われる。
中華人民共和国憲法第一章第三条には「中華人民共和国の国家機構は民主集中制の原則を実行している。全国人民代表大会と地方各レベルにおける人民代表大会は共に民主選挙によって誕生し、人民に責任を持ち、人民の監督を受ける。また、国家行政機関、司法機関、検察機関は一律に人民代表大会から産まれ、全人代に責任を持ち、全人代の監督を受ける」と記してある。
全人代の“機構職責”の欄には、以下のような“職権”を行使するとある。