絵本や児童書のビジネスを介在に、多くの家族の“幸せな時間”を創り出し、自らも社員にも家族で食卓を囲める働き方や生活を推奨。しかしその前身は、超長時間労働が当たり前の“モーレツ企業戦士”だった――。孤高さすら感じさせるユニークネスと、多くの者の共感を呼び揺り動かすビジョン。一見、相矛盾する要素を兼ね備え、圧倒的な価値を生み出す“バリュークリエイター”の実像と戦略思考に迫る新連載、第2回・解説編。
家族の“幸せな時間”を創り出す(前編)を読む
家族の“幸せな時間”を創り出す(後編)を読む
いかにして顧客のニーズを見極めるのか、どう捉えるべきなのか。この話はどのような業界にいても普遍的な課題であり、難しい問題であろう。よく「目に見えている顕在ニーズではなく、顧客自身も気付いていない潜在ニーズに着目しろ」という話も聞く。しかし、これは典型的に「言うは易し」の世界である。
今日は、この顧客ニーズをどう捉えるか、という悩みの尽きない課題について、絵本ナビのストーリーを紐解きながら考えを深めていきたい。
顧客の「属性」ではなく「用事」に着眼する
グロービス経営大学院教授、株式会社グロービス ディレクター
“Jobs to be Done”という原則をご存じだろうか?日本語に訳すと、「片付けるべき用事」。かの『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』を書いたクレイトン・クリステンセンが同書の中で提唱した、ニーズに対する捉え方のアプローチである。この概念は、顧客価値を新規に創造するために、極めて重要でありながらも、あまり広く知れ渡ってはいない。
しかし、私が金柿さんの話をお伺いし、最初に感じたことが、まさにこの”Jobs to be Done”というアプローチだった。
ここでクリステンセンが言っていることは、さほど難しいことではない。
「ニーズを見極めるときは、顧客を無機質にセグメンテーション(細分化)するのではなく、その顧客が片付けようとしている用事に着目しろ」ということである。
我々は、何か新しいサービスを考えようとする時、まずはデモグラフィック(人口統計学的)アプローチで、たとえば年齢、性別、居住地域などの統計値から「顧客の塊」を切り出し、その塊に存在するニーズに対応しようとする。これは、いわゆる「マーケティング・プロセス」の常道でもある。
しかし、統計上は同じようなカテゴリーであっても、考え方は多種多様。その塊の中に存在する小さな差異こそがマーケティング上は重要な場合も多い。さらに、同じ顧客であっても、シーンが異なれば同じ商品に対するニーズが異なる場合もある。(たとえば、単純な話、同じ人におけるカメラに対するニーズであっても、手軽にSNSで共有したい場面なのか、作品として記録に残したいのかによって全く異なる。)したがって、実際にはこのような無機質な統計データからは、新たな価値を見出すのは極めて困難といえる。