元財務官の黒田東彦氏が総裁に就任し、衝撃的な大規模緩和策を導入して1年が経過した日本銀行。学者の岩田規久男副総裁も外部から起用される中、正副総裁3人のうち唯一、中央銀行の“実務家”として副総裁に就任した中曽宏氏に、就任1年の手応えと今後の課題を聞く。(聞き手/週刊ダイヤモンド編集部 池田光史)
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(1)異次元緩和から1年
──15年ぶりに外部からトップを迎え、1年で取り組んだことは。
物価の安定と金融システムの安定という基本的使命を果たすには、組織力の結集が必要です。黒田新体制に移行する際、実は職員の間には少し身構える向きもありました。そこで最初に正副総裁3人で実施したのは、すべての本店局室等や一部の支店巡りでした。黒田総裁や岩田規久男副総裁に現場の仕事を理解し、職員との距離を埋めてもらおうと思ったのです。
発券、決済システムの運行から警備や食堂に至るまで、最前線の職員が質問に答える。組織の一体感を醸成し、相互理解を深める上でも効果があったと思います。
──量的・質的金融緩和(QQE)から1年で、その成果も出てきているということですか。
期待していた効果を着実に発揮していると思います。日本経済は、生産増→所得増→支出増という前向きの好循環メカニズムを伴いながら、緩やかな回復を続けています。先の春闘を見ても、労働需給が改善する中で必要な人員を確保する動きが、ベースアップ(ベア)や賞与の増額に好影響を与えているのではないでしょうか。
──これまでの物価上昇については、どう評価していますか。中身を見ると、円安によるコストプッシュ型といえなくもありません。
消費者物価(生鮮食品を除く)の前年比は+1.3%(2月)にプラス幅が拡大しました。背景には、もちろん円安とか、それに伴うエネルギー関連の上昇傾向が影響していることは事実です。ただ、景気が緩やかに回復を続けているので、需給ギャップの縮小による部分も大きく、幅広い品目で改善の動きが見られています。