そもそも、ヴァイオリンという楽器は大変難しい楽器です。

 簡単な比較をしますと、例えば楽器の女王様であるピアノは、鍵盤を押せば美しい音が出るよう出来上がっています。猫でも赤ちゃんでも、これを読んでいらっしゃるあなたでも、ドの鍵盤を押せばドの音が出ます。もちろん、ひとつの曲をちゃんと弾くには、10本の指の完璧な制御が必要ですが、ひとつの音だけなら誰でも弾けます。

 ところがヴァイオリンは、一つでもまともな音を出すには相応の訓練が不可欠です。左手で弦を押さえ、右手で弓を引くわけですが、左手の押さえる場所がコンマ1ミリずれるだけで音程がズレてしまいます。右手の弓のチカラが強すぎれば音が潰れ、弱すぎれば音は出ません。

 ヴァイオリンには4本の弦が張ってありますが、基本的には単音の楽器なので、オーケストラや弦楽四重奏やヴァイオリン・ソナタなど、他の楽器との合奏で威力を発揮します。例えば、ヴィヴァルディの「四季」は、ヴァイオリン協奏曲です。室内楽団を伴奏に従えて、独奏ヴァイオリンが大活躍しますが、その独奏ヴァイオリンの弾くフレーズは基本的には単音です。

 さて、「24のカプリース」です。この曲集は無伴奏のヴァイオリン独奏です。1台のヴァイオリンだけで創られている音楽です。同時に出せる音の数は最大で4つ。それで、とてもシンフォニックな響きを生みます。主旋律を際立たせながら、対旋律と伴奏も弾いている訳です。

 そこにパガニーニの凄さがあります。

超絶技巧と歌心とインスピレーションの泉

 ヴァイオリンという楽器が持つ潜在力を徹底的に引き出したのが「24のカプリース」です。未だに、この曲集を越える独奏ヴァイオリン楽曲は他にありません。

 では「24のカプリース」の何がそんなに凄いのでしょうか?それには、3つのポイントがあります。

 第1に、究極の超絶技巧です。

 アルペジオ、スタッカート・ヴォラン、3度、6度、10度の重音、ダブル・トリル、左手ピチカートです。技術的な説明は省略しますが、1台のヴァイオリンが生み出すことの出来る音の可能性を飛躍的に増大させました。現代でも、完璧にこの超絶技巧で弾けるヴァイオリニストは限られています。が、そんな技法を編み出したその創造力こそ、パガニーニの天才たる所以です。