生き物たちは、驚くほど人間に似ている。ネズミは水に濡れた仲間を助けるために出かけるし、アリは女王のためには自爆をいとわないし、ゾウは亡くなった家族の死を悼む。あまりよくない面でいえば、バッタは危機的な飢餓状況になると仲間に襲いかかる…といったように、どこか私たちの姿をみているようだ。ウォール・ストリート・ジャーナル、ガーディアン、サンデータイムズ、各紙で絶賛されているのが『動物のひみつ』(アシュリー・ウォード著、夏目大訳)だ。シドニー大学の「動物行動学」の教授でアフリカから南極まで世界中を旅する著者が、動物たちのさまざまな生態とその背景にある「社会性」に迫りながら、彼らの知られざる行動、自然の偉大な驚異の数々を紹介する。今回、本書の翻訳をした夏目大氏にインタビューを実施。ユーモラスなウォード博士のエピソードと、本書のメッセージについて聞いた(取材・構成/小川晶子)。

【アフリカの夜、ライオンが怖くて眠れない…!】動物行動学者の面白エピソードが満載で話題の本とは?Photo: Adobe Stock ※画像はイメージです

ユーモラスで人間味あふれるウォード博士の文章

――『動物のひみつ』はかなり分厚い本ですが、夏目さんの翻訳の力もあって本当にすいすい読めてしまいます。著者のウォード博士も、とてもユーモアのある方ですね。

夏目大氏(以下、夏目):そうなんですよ。アシュリー・ウォード氏はシドニー大学の動物行動学の教授ですが、一直線に研究者の道を歩いた人ではありません。

 子どもの頃から動物の観察が好きだったものの、研究者になる自信がなく、いったんはまったく別の仕事をしていました。思い直して研究者になったんです。そのため一般の人の気持ちがよくわかるのかもしれませんね。

 ゴキブリやハダカデバネズミ対する嫌悪感を素直に表現しているところなんかは、科学者らしからぬ感じもします。そこがまた親しみが湧きますね。

 ちなみに私も、ハダカデバネズミの話を翻訳するのはちょっとつらかったです。翻訳にあたって何度も画像を見て調べるので……。でも、ハダカデバネズミは好きな人もけっこういますね。

――はい、私は好きです。動物園で撮影したハダカデバネズミの動画を大事に持っています。ハダカデバネズミの社会は昆虫の社会に似ているという話、とても面白かったです。でもゴキブリはやはり苦手です……。

夏目:ゴキブリのページで止まってしまっている人もいるかもしれませんが(笑)、その先にまだまだ面白い話が満載なのでぜひ読み進めていただきたいですね。

「水曜どうでしょう」に似ている!?面白エピソード

夏目ウォード博士の人間味あふれるエピソードでいえば、アフリカでライオンを怖がっているのが面白かった。伝統的な円形の小屋の中で寝るのですが、ライオンの声が聞こえて怖くてなかなか眠れず、トイレに行くこともできないんですよね。

 翌朝は野生動物を探しにドライブへ行きます。生物学者としてはトラックから降りて探索したほうがいいけれど、ライオンがいたらどうしようと思って迷うんです。

 結局、決心してトラックを降り、草木の茂みのそばまで歩いたときのこと。茂みから動物が飛び出してきて恐怖のあまり固まってしまうウォード博士。ブッシュバックという草食動物だったんですけどね。

 このあたりのエピソードが「水曜どうでしょう」の大泉洋さんみたいだなと思いました。「初めてのアフリカ」という企画で、アフリカでテント泊した大泉さんはライオンが怖くて眠れないんですよ。

「マレーシア・ジャングル探検」の回では、茂みにトラがいると思ってビビっていたら鹿だったという話があって「シカでした」という名言が生まれたんです。あれも面白かった。

 本書を訳しながら、「水曜どうでしょう」に似てる!って思って(笑)。

異文化理解の本として読む

――動物好きな翻訳家として、『動物のひみつ』から読み取ってほしいメッセージとはどのようなものですか?

夏目:人間も動物であり、違いは量的なものでしかないということです。私は日頃から、動物と人間の間に境界線を引かない考え方をしています。

「人間は他の動物とは違って~」と、とりわけ人間を特別視した言い方が好きではないんです。確かに人間だけが持つ特徴はあるけれど、他の動物もそれぞれ特徴を持っています。

 ミツバチは蜂蜜を作る能力があるし、チーターは速く走る能力があります。人間にはできないことをやっていますよね。人間はたまたま大きな脳を持っていますが、それと引きかえに失ったものもあります。

 たとえば人間の胃腸は脆弱で、生の肉を食べることすらなかなかできません。一方で、動物の社会は人間の社会と似たところがたくさんあります。本書を読むとそれがよくわかりますよね。

 仲間が死んだら悲しいし、困っている人がいたら助けたいと思うんだなぁと。ですから本書は「異文化を理解する」という感覚で読んでほしいと思っています。

 動物の社会を知ることは、外国の文化、社会を知るのと本質的には同じです。自分と異質なものを知りたいという好奇心のある人なら誰でも楽しめるし、得るものがあるでしょう。

 それに、他者を理解することは自分を深く知ることにもつながります。そうやって楽しんでいただけたら嬉しいですね。

(本原稿は、アシュリー・ウォード著『動物のひみつ』〈夏目大訳〉に関連した書き下ろしです)