第2に、歌心溢れる旋律です。

 パガニーニの超絶技巧は、技巧のためのものではありません。超絶技巧は、あくまでより美しい音楽を奏でるための手段だったのです。「24のカプリース」には心に残る旋律が溢れています。時に超絶技巧を駆使することで、メランコリックな旋律に陰影の深い色合いを出しています。

 第3に、世代やジャンルを超えるインスピレーションです。

「24のカプリース」は後世の作曲家に多大な影響を与えています。例えば、シューマンやリスト、更にはブラームスまで“パガニーニの主題による変奏曲”を作曲しています(写真右上・ロマノフスキー盤ブラームス)。ブラームス作曲の“パガニーニの主題による変奏曲”を聴けば、パガニーニが紡いだ旋律と和声そのものが、音楽として強力な生命力を持っていることが分かります。

 更に、現代チェロの最高峰ヨーヨー・マは「24カプリース」をチェロで弾ききっています(写真右下)。あるいは、現代ロック・ギターにおける超絶技巧カリスマのイングウェイ・マルムスティーンは、自身のギター奏法は、ギドン・クレーメルが弾く「24のカプリース」をテレビで観て霊感を得たとのことです。

悪魔に魂を売った男

 パガニーニは、1782年にイタリアのジェノバに生まれ、幼少の頃から神童と呼ばれていました。ヴァイオリンは5歳で弾き始め、13歳で完全にマスター、欧州中を演奏旅行して名声を欲しいままにしました。

 その際、たった1台のヴァイオリンで常人の思いもよらぬ奏法により、優れた音楽を奏でるパガニーニは、『悪魔に魂を売った男』と揶揄され、神格化されるほどでした(トリビアですが、伝説的ブルースマン、ロバート・ジョンソンも悪魔に魂を売った男と言われています)。

 上述の超絶技巧が可能だったのは、パガニーニがマルファン症候群だったからだ、という説があります。染色体異常で指が非常に長く、おまけに関節が柔らかかったから、というのです。その真偽のほどは分かりませんが、パガニーニを巡る様々な話題の一つではあります。

 とにかく、誰もパガニーニのような圧倒的テクニックで弾けなかったので、パガニーニの公演は非常に人気が高く、チケット代も高額でした。若きシューベルトが家財道具を売り払ってまでパガニーニの公演を観たというエピソードも伝わっています。