それどころか、「日本を取り戻す」という安倍首相は、外資に対して根本的に嫌悪感があるだろうし、かつて製造業を中心に黄金時代を築いた日本を取り戻したいのだろうから、本格的な経済構造改革には、関心がないだろう。

安倍首相が本当に
「やりたい経済政策」は何か

 最後に、安倍首相が何度も企業経営者に訴え続けている「賃上げ」から、まだあまり明らかになっていない、首相が本当に「やりたい政策」の1つを考えてみたい。それは、「産業統制」である。

 安倍政権発足後、首相や麻生太郎副総理・財務相、甘利明経済再生相ら経済閣僚が、再三に渡って企業に「賃上げ」を要請してきた。甘利経済再生相に至っては、「業績が改善したのに賃上げをしない“非協力企業”にはしかるべき対応をする」とまで発言し、事実上産業界に「圧力」をかけた。その結果、今年の春闘では、トヨタ自動車やホンダなど自動車メーカー5社が月2000円以上のベアで決着するなど、大手を中心に、基本給を一律で引き上げるベアが相次いだ。

 筆者は、安倍政権の産業界に対する賃上げの「圧力」から、「国家総動員体制」を想起してしまう。これは、1938年の「国家総動員法」成立により確立し、総力戦遂行のために産業を統制する内容が多く含まれた。

 例えば、労働者の長期固定雇用、一括採用や初任給・一斉昇給、ボーナス制度など「日本的雇用慣行」の基礎が確立された。また、金融統制のために「メインバンク制度」の原型が作られた。そして、重要なのが、「企業統治」の改革であった。軍需品の生産を優先するために、企業の利潤追求が「悪」であると否定されたのだ。

 これは、企業が内部留保をため込み過ぎているとして、利益を上げた分は「賃上げ」すべしとする、安倍政権の強硬姿勢と、どことなく似ている。安倍首相は、企業の利潤追求を悪と考えているのではないか。

 かつて、「国家総動員体制」を築いた中心人物の1人が、当時商工省のエリート官僚であった、安倍首相の祖父・岸信介元首相だった。首相は、祖父の構想する国家建設を理想とし、利潤追求ではなく、国家のために貢献する産業界を築こうとしているのではないか。産業統制による総動員体制の構築こそ、安倍首相の「やりたい経済政策」なのである。