森山、阿部、安川、和田の面談した四人の課長の顔を沢井は思い浮かべてみる。
 彼らが互いに悪意を持ち、憎み合っているとは思えない。
 まして責任のなすり合いをしていいと思っているはずがない。

 だが、おそらく親会社から来るトップの前で、長年赤字の言い訳をしているうちに、いつかそれが身についてしまったのだろう。

 会社の中枢にある四人の課長がこんな姿勢では、この会社は絶対に黒字になるまい。
 タコツボのなかに閉じこもって身を守り、時折り頭を出して様子をうかがう。
 危険がせまると身を縮めてツボのなか深くかくれてしまう。

 職場でのこんな生き方が身についてしまったら、彼らが働く喜びや生きる喜びはつかめない。こんな生き方は、哀れではないか。

 しかし、彼らをこんな生き方に押し込めたのは彼らの上司、とりわけ親会社から出向した経営者にほかならない。
 彼らが生まれつき、こんな哀れな生き方を身につけていたわけではあるまい。
 むしろ彼らは犠牲者なのだ。

 そして、今は俺が出向社長だ──と沢井は思う。

 赤字、黒字はとりあえず二の次だ。
 彼らがその哀れな生き方から脱却して、もっと率直に明るく生きられるように、俺がしなければならないのだ。