フル操業でも赤字
「……」
沢井はふたたび絶句した。
赤字の犯人を追って、仕上→鋳造→設計→営業→工場とぐるりと回って、元へ戻った。
和田所長のいう悪循環とは違う意味で、これも大変な悪循環だ。
沢井は赴任するまで、受注が少なく、工場の操業度は低くて、それで赤字なのかと思っていた。
だが、和田が一人ひとりはみんな一所懸命に頑張っていると言っていたように、工場の現場はかなり残業もやって、ほとんどフル操業という状態だ。
フル操業で赤字。いったいこれはどうなっているのだろうか。
和田所長が帰ったあと、沢井は長いことデスクで考え込んでいた。
そこでふと沢井は何か本質的なものをつかんだように感じた。
製造工程の川下の仕上課長は、赤字の原因は前工程の鋳造課にあると言う。
その鋳造課長はさらに前工程の設計課だと言い、設計課長はそのまた前の営業部門だと言う。
そして営業所長は赤字の原因は工場にあると言う。
沢井はひと回りして、結局元へ戻ったのだ。
──そうだ。つまり、誰もオレだと言っていない。
俺の責任だという人間がいないのだ。
責任のなすり合い。
ジメジメした雰囲気。
それはまさに老朽化して汚れきったあの工場の空気そのものだ。こんな暗さから、良い製品が生まれるはずがない。
それに、と沢井は思う。
──人の心がバラバラだ。誰も手をつなぎ、助け合って進もうとしていない。
こんな組織にロクな仕事ができるはずがない。
つまり、こんなことでは黒字になんかなれっこないのだ。