万年赤字会社はなぜ10ヵ月で生まれ変わったのか? 実話をもとにした迫真のストーリー 『黒字化せよ! 出向社長最後の勝負』の出版を記念して、プロローグと第1章を順次公開。社内を一通り見てまわった結果、一つの課題が浮かび上がってきた。沢井はまず、3つの施策をスタートさせる。(連載第1回目、第2回目、第3回目、第4回目、第5回目はこちら)
この会社は社員を大切にしていない
7月3日の朝、沢井は岡田と藤村を社長室に呼んだ。
外は雨が降りしきっている。
木造モルタルの古い事務所の、2階の南端にある社長室の窓は、風が吹きつけると窓ガラスと桟のすき間から雨水が内側ににじみ、流れ込んでくる。
「この事務所も相当のものですな」
言いながら、沢井は応接セットに腰を下ろした。
かなり大きなテーブルを囲んだ応接セットで、7名がゆったりすわれる。
この会社の最高意思決定と情報連絡を兼ねた部長会議と称する会合が、毎週金曜日に朝9時からこの場で行なわれている。
沢井の向こう側の大きなソファの右に岡田、左に藤村がすわった。
「なにしろ、昭和22年のこの会社創立以来の建物ですから。補修を重ねて何とかもたせてきているのです」
まるで自分の責任であるかのように、岡田はそのがっしりした肩幅を縮めて言った。
岡田は沢井よりやや背が低い。しかし色浅黒く、骨太で、半袖の作業服から出ている腕はみっしりと固い肉がついていた。
半白の固い髪が豊かで、その下の太い眉、大きな鼻と口、がっちりと四角く張ったアゴ──長年現場で苦労を積み上げてきた男であった。
「昨日、渋谷さんと引き継ぎをしていて驚いたんだ。私が何気なくデスクの上に置いた鉛筆が、コロコロころがっていくんだ。軸の丸い赤鉛筆だったがね。床が相当傾いているようだね」
「総務部の私のデスクも同じですよ。よく倒れないで立っていますな、この事務所」
藤村の色白の細長い顔が苦笑している。
「ところで、お二人に来ていただいたのは、いろいろお話したいことがあるのです」