安倍晋三首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)は今日(5月15日)、報告書を首相に提出する。報告書は、集団的自衛権の行使を容認するよう憲法解釈の変更を求め、国連の加盟国が一致して制裁を加える「集団安全保障」や、相手国から武力攻撃を直接受けていない「グレーゾーン事態」についても、法整備を進めるよう提言する内容だ。いよいよ、集団的自衛権行使容認の与野党協議が本格化することになるだろう。
安倍首相は、「やりたい政策」実現に突き進み始めたようだ。一方で、本来「やるべき政策」であるはずの経済政策は、「やりたい政策」の環境整備のための高い内閣支持率維持に利用されてきた(第80回を参照のこと)。歴代政権が国民に「痛み」を強いながら、苦心惨憺取り組んできた財政再建や持続可能な経済運営を一切否定し、業績悪化に苦しむ斜陽産業が望む公共事業や金融緩和を「異次元」規模で派手に打ち出してきたのである(第58回・P.2を参照のこと)。
この連載では、安倍首相の政治姿勢を「指導力も政治力も発揮されていない、政策全体へ配慮する知恵もない、誰も反対しない政策で、政治家など必要ないものだ。これでいいなら誰でも首相や財務相になれる」(第52回・P.1を参照のこと)と、徹底的に批判し続けてきた。そして、首相の指導力が発揮されていない、誰も反対しない政策の羅列の陰で、さまざまなアクターが有利に物事を進めようと、したたかに行動している。
財務省・財政再建派の政治家は
アベノミクスを利用して
したたかに消費増税を実現した
アベノミクスが国民の支持を得たのは、「第1の矢(金融緩和)」「第2の矢(公共事業拡大)」を、まさに「異次元」で断行し、株高・円安を起こすことで企業がとりあえず利益を上げられたからだろう(第75回・P.1を参照のこと)。
安倍首相は、経済政策を大転換するために人事権を大胆に行使した。「公共事業推進派」「リフレ派」の学者を官邸ブレーンとして起用して財務省・日銀包囲網を完成すると同時に、「社会保障と税の一体改革」三党合意を推進した「財政再建派」を意思決定から外したのだ(第51回・P.2を参照のこと)。