どんな時代でも生きていける「一生モノ」の自信をわが子につけさせるには、どうすればいいのだろう?と迷いを感じている親御さんに向けて、不定期でお送りしている開成学園校長・柳沢幸雄さんのインタビュー。5月21日から5回にわたり、開成高校硬式球部を取材したベストセラー、『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』の著者・髙橋秀実さんとの対談を隔日で掲載しています。開成学園といえば、「東大進学者数全国ナンバー1」として知られる日本トップクラスの進学校。ところが、お二人の対談を通して見えて きたのは、「開成っ子」の意外すぎる一面でした。「自分らしさをトコトン追求する執着力」についてお話いただいた対談・第1回目、第2回目に続いて今回は、開成っ子のどんな一面が見えてくるのでしょうか?
「勝つための努力」を究めさせる
(たかはし・ひでみね)
1961年横浜市生まれ。東京外国語大学モンゴル語学科卒業。テレビ番組制作会社を経て、ノンフィクション作家。『ご先祖様はどちら様』で第10回小林秀雄賞、『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』で第23回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。そのほか著書に『TOKYO外国人裁判』『素晴らしきラジオ体操』『からくり民主主義』『はい、泳げません』『やせれば美人』『結論はまた来週』など。
髙橋 『「弱くても勝てます」』でも書きましたが、開成野球部が目指しているのは、“勝つための”野球。だから下手でもいいんです。通常の野球選手は、球が飛んできたら走りながら捕り、捕りながら送球の体勢に入る。この一連の流れるような動作が一番早いし、格好もいいからみんなそれを習得しようとするんですが、これは結構難しい。だから開成高校野球部の青木監督は、正面に来た球だけを確実に捕り、確実に送球すればよいという方針をとったんです。正面以外に来た球は「なかったことにする」と。
なんか、ガチガチであまり格好のよいものではありません。でも実際の試合で強い打球が飛んでくると、
流れる動作はグローブを弾いたりすることがありますが、開成の守備はそれこそ確実に捕球し、しっかりアウトにできたりする。下手でも勝てる。私たちはつい上手くなろうとしがちですが、監督は「勝つために必要なことは何か」と問いかける。目的意識が非常に明確なんです。
柳沢 目的の設定は、部活でも、勉強でも、何もするにもものスゴく重要なんです。“逆算して考える”と言いますが、僕が生徒にいつも言っているは、「自分でちゃんと働いて、自足の生活をまっとうすること。これが教育のゴールなんだから、今、何をやればいいか、ゴールから逆算して考えなさい」ってことなんです。とっても現実的でしょう。
まずは自分が“将来こういう職業に就いていたら満足できるだろう”というイメージを決める。そのためには、どういう技術と知識が必要かリサーチする。受験する大学を選ぶのは、そこからです。みんながみんな医学部や東大を目指して勉強するんじゃなくて、生徒のゴールはそれぞれ違うから、高校生活の過ごし方も千差万別なんです。この“トップダウン方式”なら、大学に受かっても燃え尽きないのも利点です。
髙橋 大学に合格すると燃え尽きちゃう子もいるんですか?
柳沢 いますよ。大学合格を目標にすると、それがゴールになって燃え尽きちゃう。けれど、具体的な「職業」から逆算していくトップダウン方式なら、大学合格も1つの経過にすぎませんから、燃え尽きることはないわけです。