「謝ってしまうとこちらの非を認めたことになり、補償を求められる」と、安易に謝らないようにと指導する企業や医療機関がある。しかし、現場はそれでは収まらない。かえって相手を怒らせることになりかねない。補償等に結びつかないお詫びのしかたを伝授。
「なんとか言えよ!」
1週間前に整体マッサージを受けた北山信夫は、その店を再び訪れた。ただし、施術を受けるためではない。
「ここでマッサージをしてもらってから、腰の痛みがひどくなったような気がする」
受付の若い男性職員にこう伝えると、待合室のソファに身を沈めた。ほかに客はいない。職員は北山から診察券を受け取り、施術室に向かった。
北山は腰の具合を気にしながら、整体師がやってくるのを待った。ところが、10分経っても職員は戻ってこない。北山が呼び鈴を鳴らそうと思ったそのとき、声がかかった。
「先生はいま施術中ですので、しばらくお待ちください」
こう言い残して、そそくさとその場から立ち去ろうとする。北山は思わず声を荒げた。
「先生はなんて言ってるんだ? 話を聞いてきたんだろ?」
「いえ、私にはよくわかりませんので……」
職員はこう言って、口をつぐんでしまった。北山は、ただうつむいている職員に腹が立ってきた。
「なんとか言えよ!」