「下手なことを言ったら叱られる……」
整体院の職員の川瀬次郎は、北山に声をかけられたときから緊張していた。最近、整体やマッサージで骨折などのトラブルが頻発していることをマスコミ報道で知っていたからだ。
〈うちの先生に限って、施術ミスはないと思うけれど、もし……〉
案の定、整体師からは「余計なことは言うな」と指示された――。なんと言えばいいのか……。
落ち度がなくても「お詫び」は必要
突然、お客様から叱責を受けると、反射的に「申し訳ございません」という言葉が出るのではないでしょうか?
それは、自然な反応です。相手の怒りを鎮めるには、お詫びが必要です。
ところが、「安易に謝ってはいけない」と、従業員に指導している会社もあります。「いったん謝ってしまうと、こちらの非を認めたことになり、あとで補償を求められる」というのが理由です。医療過誤の申し立てを警戒する病院などでも、その傾向が見られます。
たしかに、トラブルの原因がはっきりしない段階で頭を下げるのは釈然としない、という考え方もあるでしょう。しかし、これは机上の空論です。
もし、現場の担当者が「安易に謝罪はしない」とばかりに押し黙っていたら、どうなるでしょうか? たぶん、この事例のように相手を激高させます。
また、その場を取り繕うために愛想笑いでもしようものなら、「なにをヘラヘラしているんだ!」と罵声を浴びるでしょう。日頃から「笑顔」を心がけている接客業では要注意です。
苦情を申し立てるお客様のほとんどは、自分にも落ち度があるかもしれないなどとは思っていません。だから、お詫びの一言が大切なのです。