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2030年のビジネスモデル

社長が年間60泊もキャンプに出かけ、
未来をつくる経営

齊藤義明 [ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]
【第18回】 2014年5月22日
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 実はスノーピークが自ら製造しているのは「焚火台(たきびだい)」という同社を象徴する商品のみである。自社で製造機能を抱える必要はなく、地元燕三条に集積する中小企業の技術力を最大限に引き出しているのだ。

 古くから刃物や金属食器の中小企業集積で有名な燕三条には今も約1500社の金属加工業が存在する。彼らはアウトドア分野の製品で何か売りたいものがあればスノーピークに持ってくるそうだ。スノーピークこそが燕三条の金属加工技術を最も高い価値に変換するブランド力を持ったプラットフォームであることを知っているからである。

 地域に眠る中小企業の高度な加工技術と、世界に発信するアウトドア・ライフスタイルブランド企業とが共生する素晴らしい事例である。

ユーザー体験を核とするスノーピークの文化

 スノーピークの商品開発は全て内製である。外部のデザイナーは使わない。その理由について山井社長は、「スノーピークの商品は、デザイン、機能、ユーザースキルが三位一体だから、アウトドアライフが心から好きじゃないとデザインできない」と語る。

 なるほど「ユーザースキル」というのは、そのことを好きな人以外には磨くことのできないスキルである。デザイナーや開発者の要件としてユーザースキルを明確に位置付けているところがスノーピークらしい。

 そして、スノーピークでは作った商品全てに保証書(保証期間)を付けていない。全社員160名のうち、リペアスタッフが10名いて、常時、ユーザーから送られてきたスノーピーク製品の修繕にあたっている。今どき、大企業の中で製品に保証書を付けていないメーカーはないだろう。

 いつでも修(なお)す、まるで鍛冶屋などの手仕事の発想である。しかし山井社長は、「ユーザーとして一番嫌なことは、買ったモノが壊れること、機能しないことではないでしょうか。大いに落胆します。ユーザーの立ち位置に徹底して立ちたい」と言う。

 「スノーピークが提供しているものの本質は何か?」、「先進国に生きる人間をストレスから解放し人間性を回復する癒しである」。そんな本質的な話が社内ではよく飛び交う。

 「人間性の回復というマグマの上に、スノーピークという火山がスクッと立ち、オートキャンプと登山という2つの大きな頂を形成しているのが当社の現状」と山井さんは話す。そしてこれからは「アーバン・アウトドア」という第三の癒し市場にも挑戦していくという。

トップ自らが「野遊び」の先頭を走る意味

 トップ自らが「野遊び」の先頭を走る会社は、自らもユーザーの一員として一体化しながら、アウトドアライフの未来を見つめている。「この事業を経営されていて何が嬉しいですか」という質問に対し、山井さんの答えは極めて自然だった。

 「お客様同志がつながっていくのが嬉しい。キャンプで、子ども同士が遊び始める。つられて親も一緒にお酒を飲み始めたり、晩ごはんを交換したりする。すると必ず、次に一緒にキャンプに行こうよという話になる。そして一生のお友達になる。もちろん家族内の絆も深まる。多くの場合、テントを立てるのはお父さん。お母さんや子どもたちが手伝う。家族それぞれの立ち位置がはっきりする。家族の仲が良くなる」

 売上、利益、事業計画、マイルストーン、PDCA、株主価値……どれも大事ではある。だが自分の事業の価値を、ユーザーの目線で自然な言葉で語れることはもっと素敵だと思う。それこそが本当のビジョンであり、トップが担うべき原始的役割だと思う。だから山井さんはまた旅に出る。キャンプが好きだからという、その本能に従って旅に出る。遊びながらアウトドアライフの未来を考え、社に戻って課題を提起する。逆に、もし山井さんが社内にこもり、キャンプの代わりにPDCAに明け暮れるようになったら、スノーピークはスノーピークらしさを失い、成長力を失うであろう。

 「旅に出ます。探さないでください。(笑)」

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齊藤義明
[ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]

ビジネスモデル研究者、経営コンサルティング会社勤務。政策・経営コンサルティングの現場でこれまで100本以上のプロジェクトに関わる。専門は、ビジョン、イノベーション、モチベーション、人材開発など。

2030年のビジネスモデル

未来のパターンを作り出す企業は、はじめは取るに足らないちっぽけな存在だ。それゆえに、産業の複雑な変化の過程で、その企業はときに死んでしまうかもしれない。しかし個別企業は死んでも、実はパターンは生き続け、10年後、20年後、新しい現象として世の中に広がる。2030年の日本につながる価値創造のパターンとは何か。現在さまざまな領域でその萌芽に取り組む最前線の挑戦者たちとのダイアローグ(対話)。

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