今からちょうど70年前の1944年6月6日、人類史上最大規模の軍事作戦であるフランス・ノルマンディー海岸への上陸作戦が敢行された。この巨大なプロジェクトを遂行したリーダーたちは、いかにして極限の修羅場でリーダーシップを発揮したのか――1992年、私はその地を訪れた。
史上最大の作戦の「現場」
ノルマンディーを訪れて
1992年春、私はパリにいた。同地で行われる国際経営学会に出席するためだ。神戸大学の加護野忠男、慶應義塾大学の奥村昭博が一緒だった。飛行機が早朝に着いたため、ホテルのチェックインはまだできなかった。学会は翌日だから、時間はたっぷりある。どうやって時間を潰そうかと考えた時、閃いた。そうだ。ノルマンディーに行こうと。
私の突飛な申し出に2人が乗ってくれ、鉄道を使って3人でカーンまで移動した。カーンはノルマンディー地方の中心地であり、最も深甚な被害を被った町でもある。当時も爪痕が残っていたカーン市内を歩き、戦争博物館を訪問した。オマハ海岸にも行き、ドイツ軍のトーチカ跡に入った。連合軍の慰霊碑を見上げた。そして、砂浜に立ちつくし、「あの日」に思いを馳せた。その日のうちにパリに戻ったはずだが、翌日の学会のことはほとんど記憶がない。
時代はさらに下り、2012年夏のことである。この10年間ほど、私は同僚の竹内弘高(ハーバードビジネススクール教授)と一條和生(一橋大学国際企業戦略研究科教授)とで08年からナレッジ・フォーラムという場を主宰し、日本を代表する30社の経営幹部候補生の研修を行っている。その研修の一環で毎年恒例の夏合宿があるのだが、12年(5期生)、13年(6期生)と2年連続で、日本語訳が出たばかりのアントニー・ビーヴァーによる上下巻の大著『ノルマンディー上陸作戦1944』を事例研究に使ったのだ。テーマはリーダーシップである。
誰のリーダーシップが優れていたか、どれがお粗末だったか、連合軍の勝利を決定づけたのは何か……白熱した議論が夜を徹して行われた。ここでの議論は、経営学の視点からこの一大プロジェクトを見つめ直す機会を与えてくれた。