米大統領選の民主党予備選でオバマ上院議員が事実上の勝利宣言を行った。『日はまた昇る』の著者で英エコノミスト誌前編集長のビル・エモット氏は、マケイン共和党候補にも僅差で勝ち、オバマ大統領が誕生すると予測する。(聞き手/「ダイヤモンド・オンライン」副編集長 麻生祐司)

ビル・エモット
Justine Stoddart

 これは番狂わせでも、奇跡でもない。

 民主党のバラク・オバマ上院議員は5月20日、獲得した一般代議員数の総数が過半数に達したことを受けて、「(民主党の)大統領候補指名が手に届く寸前のところにまで来た」と発言し、事実上の勝利宣言を行なった。
 
 「本命はヒラリー・クリントン上院議員」という予備選当初に抱かれていた大方の予想を覆したことから、番狂わせが現実化したとの見方も多いが、そのレトリックはまったくの見当違いである。オバマ氏の勝利、言い換えれば、クリントン氏の敗北は、起こるべくして起きたことであり、私はかなり前からこの着地点を欧米のメディアで予測してきた。

 そもそも経済運営とイラク政策で失策を繰り返すブッシュ共和党政権に愛想をつかした米国民が、今回の大統領選で渇望していることは何か。それは、端的に言えば、“まったく新しいアメリカ合衆国”のイメージを作り出してくれるリーダーの登場であるはずだ。チェンジ(変化)、リニューアル(刷新)というオバマ氏の“約束”は、たとえいくらサブスタンス(実質的中身)を欠いていようとも、民主党有権者の心を奪うはずだと当初より確信していた。

 それに対して、クリントン氏は、女性という点では新しいが、「クリントン」という意味では古かった。1990年代への回帰、さらにいえば、ブッシュ→クリントン→ブッシュ→クリントンというダイナスティ(君主制)政治を想起させてしまう点で、彼女は戦う前から不利な立場にあったのだ。

 番狂わせと言うならば、予備選の結果が今年に入ってからも僅差であることのほうがむしろ表現として当てはまる。要するに、クリントン氏は予想外に敗北したのではく、予想外に善戦したと捉えるべきなのである。

クリントンだったら
マケインに負ける?

 では、オバマ氏は果たして米国建国以来初めての黒人大統領、いや正しくはマイノリティ(少数派)初の大統領になれるのか。結論からいえば、私の予想は、イエスである。ただし、かつてJFK(ジョン・F・ケネディ)がリチャード・ニクソンを僅差で降したときのように、かなりの接戦になるだろう。