政府の新成長戦略の目玉として、新たな労働時間制度の導入が決まった。「残業代ゼロ」ばかりが問題視されているが、実は、もっと本質的な議論が置き去りにされている。

「残業代ゼロ」に翻弄された<br />労働時間規制改革の骨抜き新しい労働時間制度の導入は成長戦略の目玉政策だ。だが、「残業代ゼロ」にばかり世間の関心が集中し、本質的な議論がなされていない
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 最終的には、経済産業省と厚生労働省が互いに譲歩して決着を見た。

 6月11日、甘利明経済再生担当大臣と田村憲久厚生労働大臣ら4閣僚が、労働時間に関係なく仕事の成果に応じて賃金を払う「新たな労働時間制度」を導入することで合意した。16日に発表予定の新成長戦略に盛り込まれる。

 2006~07年の第1次安倍政権では、この新制度と類似した日本版ホワイトカラーエグゼンプション(ホワイトカラーなど一定の類型業務に従事する労働者に対して、労働時間規制を適用除外とする制度)の導入を試みた。

 だが、“残業代ゼロ”と集中砲火を浴びて法案提出を断念した経緯がある。

 新制度のたたき台となったのは、政府・産業競争力会議で長谷川閑史・武田薬品工業社長が提出した「長谷川ペーパー」なるものである。もっとも、実際にこの原案を描いているのは経産省だ。

 労働規制の緩和は産業界の総意、という大義名分の下、手付かずになっていた労働政策の制度設計を仕切ることで経産省の存在意義を示そうとしたのだ。成長戦略の目玉に乏しかった首相官邸、内閣府もこの提案に乗った。

 長谷川ペーパーによれば、大まかには、現業的業務の労働者、一般職、経験の浅い若手社員を除く人材のほとんどが、労働時間規制の適用除外(残業代ゼロ)となり得る仕組みになっていた。