なにより、通説とは真逆に、欧州との天然ガス・パイプラインのビジネスが、ロシアにとって深刻なリスクになってきたのだろう。この連載で指摘してきたように、現実の天然ガス・パイプラインのビジネスでは、供給国と需要国の間で、一方的な立場の有利、不利は存在しない。

 パイプラインでの取引では、物理的に取引相手を容易に変えられない。パイプラインを止めると、供給国は収入を失ってしまう一方で、需要国は瞬間的にはエネルギー不足に悩むものの、長期的には天然ガスは石油・石炭・原子力・新エネルギーで代替可能なものである(第52回・P.3を参照のこと)。つまり、国際政治の交渉手段として、天然ガスを使うことは事実上、不可能である。むしろ、それをやれば、ロシアは自らの首を絞めることになるのだ。

 ロシアによるウクライナへの天然ガス供給カットは、過去何度もあったように(第52回・P.4を参照のこと)、ガス輸入代金未払いが理由であり、国際政治の駆け引きに使ったわけではない。むしろ、ロシアは、供給カットによる収入減を避けようと、頭を悩ませ続けてきたのだ。

極東へ向かうロシア:
中露接近を恐れるな。「相当な覚悟」のロシアに対し、
日本は戦略性を持って対応すべき

 欧州での天然ガス・パイプライン・ビジネスが、ロシアのリスクとなったことで、ロシアは極東地域の開発を重要視し始めた。まず、ロシアは中国に接近した。そして、価格面で折り合いがつかず10年越しの懸案であった、総額4000億ドル(約40兆円)に上る歴史的な天然ガスの供給契約を中国と結んだのだ。

 また、プーチン大統領は、契約調印後、今回の東シベリアから極東を通り、中国北東部に至るパイプラインを建設する「東ルート」に加えて、西シベリアからモンゴルの西側を通り中国につながる2本目のパイプラインの新たな計画も明らかにした。中露間で、エネルギー安全保障の強固な協力関係が構築されつつあるといえる。

 また、習近平中国国家主席とプーチン大統領は、日米欧を強烈に牽制する共同声明を発表した。「もっと公正で合理的な国際秩序」を目指すとし、「他国の内政への干渉」や「一方的な制裁」への反対を打ち出し、「第2次世界大戦後の国際秩序を壊そうとするたくらみ」への反対までも明記したのだ。日本を牽制したい中国と、欧米を牽制したいロシアの思惑が一致した共同声明だといえる。