おもてなしは「特別な一人」に向けて、
「感動」を提供する営み

 1つは、一般化された(マス)顧客に向けてではなく、「自分にとって大切な誰か」だけに向いている点です。おもてなしを実践されている人はよく、「多くの『顧客』に平等に提供しようとするのが、普通のサービス。特定の『個客』に向けて提供するのが、おもてなし」と仰います。

 ホテルや旅館が宿泊客を受け入れる際、予約時に人数と構成(大人・子供、男女の別など)、来館予定時間さえ聞いておけば、必要なサービスをする上では支障ありません。しかしホテルや旅館の中には、どういった目的で宿泊するのか、苦手な食材やアレルギーはないか、前後にどこかを観光する予定なのか等、個々の宿泊者の背景事情を把握して当日のサービスに反映してくれるところも少なくありません。あるいはリピート顧客に対しては、以前の利用経験を踏まえて特別な対応を取ってくれるところもあります。

 皆さんも、利用したホテルやお店の従業員から「自分のために特別なサービスをしてくれている」と感じて、嬉しくなった経験があるのではないでしょうか。私自身も様々な嬉しい経験があります。

 例えば誕生日にちょうど海外出張でホテルに泊まったのですが、パスポートで本人確認をした際にフロントの従業員が私の生年月日に気づいたらしく、チェックイン後に支配人からお祝いの花束が届いてびっくりしました。あるいは半年ぶりくらいに出かけたレストランで、「食後の珈琲には温めた牛乳をお使いになるんですよね」と、スタッフが自分の習慣をしっかり覚えてくれていたのにも感心したことがあります。このように個々の顧客の状況や好み・悩みを深く知って、「大切なあなただけの為」の対応を試みるのがおもてなしの特徴です。

 もう1つのおもてなしの特殊性は、顧客の納得ではなく、感動を目指す点です。通常、顧客自身が言葉や態度で要求したことに関しては、顧客は当然満たしてくれるものと期待します。満たしてくれなければマイナスの満足(=不満足)ですが、満たしてくれても「納得」するだけで、それ以上の満足の創出にはつながりません。

 一方、顧客の「感動」を呼ぶのに効果的なのは、顧客がまだ口に出していない、あるいは顧客自身が気づいてさえいないニーズを自発的に読み取って、先回りして対応することです。おもてなしには、こうした「顧客のニーズを先回りして対応し、顧客の感動を目指す」姿勢が多かれ少なかれ含まれています。

 よく外食の現場では、「お客さまに『メニューを見せて欲しい』『水が欲しい』と言われてから動いていたら、一流の給仕ではない」と言います。つまり「メニューが見たい」「水が欲しい」とリクエストされてから動くのは納得水準のサービスです。一方、「あのお客さまはまだお腹が空いている様子だから、追加で何か召し上がるか訊いてみよう」と先回りしてメニューを渡したり、「あのお客さまは暑がりな方のようだ」とか、「あのお客さまは味付けの濃いものを食べているから、喉が渇くだろう」といった具合に慮って早めに水を注ぎ足しに行くのが、感動につながるおもてなしなのです。