アベノミクスの成長分野の一つとして位置付けられている農業においては、「企業による農業生産法人への出資規制緩和」や「JA全中の自律的新制度への移行」が注目を集めている。第2回では、農協改革に焦点を当てる。今回の農協改革にしろ、TPPにしろ、農業関連では賛成・反対の二元論的なイデオロギー対決がしばしば見られるが、日本農業の再生にとって、そのような短絡的な議論は意味がない。本稿では、日本農業を活性化させるために農協をどうすればよいのかを、海外事例等を交えて客観的に見ていこう。

みわ・やすふみ
東大農学部卒、東大大学院農学生命科学研究科農学国際専攻修了。現在、日本総合研究所創発戦略センター主任研究員、農業チームリーダー。農産物のブランド化に関するベンチャー企業の立上げに参画。主な著書に『グローバル農業ビジネス』、『次世代農業ビジネス』(以上、日刊工業新聞社)、『甦る農業―セミプレミアム農産物と流通改革が農業を救う』(学陽書房)ほか。

なぜ農協の役割は低下してきたか

 新成長戦略では、農協の改革に関して、「地域の農協の自立・活性化と農協中央会制度の自律的新制度への移行」という表現が盛り込まれた。規制改革会議の提言では中央会制度の廃止、つまりJA全中の解体が示されていたが、成長戦略では自立的新制度への移行という表現に抑えている。

 まず、農協を取り巻く環境の変化を見てみよう。農協には農産物販売や資材調達を行う経済事業、金融サービスを担う信用事業、各種共済(保険)を取り扱う共済事業等の3事業があり、加えてJA全中が各農協に対する指導・監査や農政活動を行う指導事業が存在する。さらに、各事業が全国レベル、都道府県レベル、地域レベルの3層構造となっており、結果として複雑な構造を成している。JA全中が農協組織全体を統括しており、JA全農が経済事業、農林中金が信用事業、JA共済連が共済事業を管轄している。(図表1)この中で、特に農協の本質的な役割として挙げられるのが、JA全農をトップとした経済事業である。

 旧来の農産物流通は、各農家が農協に農産物を集め、卸売市場を経由して需要者に届けられており、これは市場流通と呼ばれている。この市場流通において、農協には地域の農家を取りまとめる役割が求められ、安定的・効率的な供給体制の構築に貢献してきた。