6月16日(月)の産業競争力会議で、安倍政権の新たな成長戦略の素案が提示されました。官邸の周到な根回しもあり、その内容に関するメディアの報道は好意的なものが多いですが、それではこの成長戦略で日本経済の成長力が高まるか、株価が大きく上昇するかといえば、まだ力不足と言わざるを得ないのではないでしょうか。
改革の本丸に踏み込めていない
もちろん、今回の成長戦略には高く評価すべき部分がいくつもあります。
農業でのJA全中の改革、医療での混合診療の拡大、雇用制度でのホワイトカラー・エグゼンプションの導入など、これまで手つかずであった岩盤規制の改革に切り込んでいます。また、国家戦略特区での規制改革項目の追加など、1月のダボス会議での安倍首相の公約どおり、特区を規制改革の先兵として更に進化させようとしていています。
その他にも、法人税減税、女性の活躍の促進、外国人労働者の受け入れ拡大など、日本経済の成長力を高めるために不可欠な政策にいくつも取り組んでいます。昨年の酷評された成長戦略とは様変わりで改革志向の成長戦略となったことは、素直に高く評価すべきでしょう。
その一方で、あら探しをする訳ではありませんが、政策の全体像の観点からどうしても気になるのは、各分野の改革でもっとも重要な本丸にはまだ手つかずのままであるということです。
例えば、農業を成長産業とするために重要なのは農地の大規模化であり、その観点からは農業生産法人への企業の出資割合を思い切って高めるなどの改革が不可欠ですが、この点については不十分な結果となっています。
一方で、JA全中は既に地域農協から疎まれる存在になっていたことを考えると、悪く考えれば農業では取っ付きやすくシンボリックな改革を先行させたとも言えます。更に言えば、JA全中を具体的にどのように改革するかの詳細は先送りになったので、今後の詳細設計の段階で改革が骨抜きにされる危険性もあります。
同様に、雇用制度改革について言えば、正規雇用と非正規雇用の区別をなくす“同一労働同一賃金”(オランダ革命)の実現、金銭解雇のルールの明確化といった改革が重要かつ不可欠ですが、それらにはまったく手つかずのままです。もちろん、ホワイトカラー・エグゼンプションの対象が拡大されること自体は望ましいことですが、それが雇用制度改革の一丁目一番地とは言いにくく、やはり取り組みやすいものをやったという印象は免れません。