バービックに突進し、強打を浴びせた。信じられないことに、向こうは動こうとせず、ジャブも突いてこなかった。目の前に突っ立っていた。俺は開始早々、左耳に右を当てて鼓膜を破ろうとした。ラウンド中盤、強烈な右でよろめかせ、猛攻を加えると、終盤、バービックは朦朧(もうろう)とした感じになった。強烈なパンチが何発か入っていた。

 コーナーに戻って座った。抗生物質の注射のせいで、7月のアイスクリームみたいに汗が滴っていたが、気にしなかった。バービックを仕留めることに集中だ。俺の英雄の1人、キッド・チョコレート[キューバ出身の初代世界王者]もずっと梅毒と戦っていた。

「頭を動かせ、ジャブを忘れるな」と、ケヴィンが言った。「頭に攻撃が集中しているぞ。ボディから入れ」

 第2ラウンド開始10秒、右を当てるとバービックはダウンした。すぐ飛び起きて打ち返してきた。反撃しようと努力はしていたが、もうパンチに威力はない。ラウンドの残り30秒くらいで右のボディブローを決め、そのままアッパーを放ったが、これはとらえそこなった。しかし、左フックがテンプルをとらえた。少し反応が遅れる感じで、バービックは倒れていった。拳に打った感触さえなかったが、効いたんだ。バービックは立ち上がろうとしたが、後ろによろけ、足首がぐんにゃり曲がっていた。

衝撃的なKOでトレヴァー・バービックを粉砕。足をもつれさせながら必死に立ち上がろうとするバービックの姿は「宇宙遊泳」と称された。(Photo:© AFP/Getti Images)

“立てっこない”すぐにわかった。

 思ったとおりだった。もういちど立ち上がろうとしたが、キャンバスにのめるようにまた倒れた。なんとか立ち上がることはできたが、レフェリーのミルズ・レーンがバービックを抱きかかえ、手を振るしぐさで試合を止めた。