俺はついにボクシング史上最年少の世界ヘビー級チャンピオンになった。
「試合終了です。ボクシングに新たな時代が到来しました!」HBOのアナウンサー、バリー・ワトキンスが叫んだ。
「マイク・タイソンはマイク・タイソンがいつもやっていることをやった。これぞ戦い(ファイト)だ」と、シュガー・レイ・レナードが言い添えた。
「頭に大文字のFがつく正真正銘のFight(ファイト)だ」と、ワトキンスが応じた。
感覚が麻痺していた。何も感じられなかった。まわりで起こっていることは意識できたが、とにかく感覚が麻痺していた。ケヴィンが俺を抱き締めた。ホセ・トーレスが近づいてきた。
「信じられない、ちきしょう。20歳でチャンピオンになっちまった」と、俺は彼に言った。「嘘みたいだ。20歳で世界チャンピオンだ。こんなくそガキが」
ジミー・ジェイコブズもリングに入ってきて俺にキスした。
「カスもこうしてくれたかな?」と、俺は言った。ジミーはにっこりした。
息子がバービックのマネジメントをしているプロモーターのドン・キングが祝福にやってきた。俺は観衆を振り返って、“やったぜ”と思った。“俺とカスはやったんだ”。そのあとカスに話しかけた。
「やっとみんなが間違っていたことを証明できたな。バービックは絶対、俺の背が低すぎるなんて思ってやしないよな?」とつぶやくと、カスの言葉が聞こえてきた。
「フィニッシュまでの戦い方は、まるで駄目だが、最後は圧巻だった。お前は歴史を作ったんだよ」
彼は天国から見ている
試合後のインタビュー。俺はこんなふうにカスを称えた。「世界一のボクサーになったけど、俺はカスの創造物だ。彼にここにいてほしかった。きっと、自分のことを変人と書きたてたやつらをこき下ろしただろうな。“ここにいる俺の息子を見たか。こいつを倒せるやつはこの世にいない。わずか20歳だが、世界の誰もこいつを負かすことはできない”って」
「ボクシングを始めたときからずっと、この瞬間を待ちわびていた」記者会見が始まると、俺は言った。「バービックはとても強かった。自分と同じくらい強いとは全然思っていなかったけど……俺の打ったすべてのパンチには相手を破壊しようとする悪意が込められていた。この最年少記録は永遠不滅、決して破られることはないだろう。永遠に王者でい続けたい。負けるくらいなら死んだほうがましだ。俺は相手を破壊するために、世界ヘビー級選手権を奪い取るためにやってきて、それを成し遂げた。この試合を偉大な守護者カス・ダマトに捧げたい。きっと彼は天国から見ていて、過去のいろんな名ボクサーたちと話をして、自分の息子を自慢しているだろう。変わり者だったけど……間違いなく天才だった。彼がこうなるとずっと言い続けてきたことが現実になったんだ」