報告書では、その育成のために大学教育の中にきちんと位置付け、研修でも多くの異なる診療科目を学ぶように、と提言した。併せて、国民にも大病院偏重の考え方を改めて近所の開業医にかかるよう呼びかけ、大改革に乗り出そうとした。

 ところが、日本医師会はこの家庭医の制度化を「医療費抑制のための方便に過ぎない」「開業医の選別につながる」と強く反対し続けた。紆余曲折を経て遂に、制度化は葬られてしまう。その「抗争」の中で、日本医師会が家庭医に対抗して打ち出したのが「かかりつけ医」であった。

 欧州のような特別な基準や研修はなく、単なる行きつけの医師をかかりつけ医に仕立ててしまった。力負けした厚労省内では、以来、家庭医という用語そのものを遠ざけ捨て去った。暫くタブー視されてきた。

 今では、「家庭医なんて言葉を省内の文書で見かけたこともない。かかりつけ医としか言わないですよ」と、厚労省内の課長職のキャリア官僚が打ち明ける。40年の間にタブー視どころか、全く疑問も抱かずにかかりつけ医を使うようになった。 

 日本医師会と英国の家庭医の見解の違いを見せつけたテレビ放映が最近あった。5月31日に放映されたNHKスペシャル「日本の医療は守れるか?」である。スタジオに関係者や一般人を30人ほど集めて、「いつでもどんな時でも病院を利用できる日本のシステム」を問う好企画だ。

 医師の代表として、最前列に日本医師会の横倉義武会長と英国で家庭医を始めた澤憲明さんが並んだ。短期間の来日中だった澤さんを引っ張り出して、家庭医の実情を引き出すNHKの見事な「企み」とみていい。医師会長という日本の医療のトップと、高々34歳の、しかも日本で活動していない青年医師を対等に配置した。

 そこで、澤さんは「私は家族の間のトラブルも相談に乗ります。(うつ病など)精神的な疾病につながっているかもしれませんから。病気の治療だけが仕事ではありません。私の診療所に登録されている地域住民のために、常に患者に寄り添うように心がけています」と、予防や健康まで深く立ち入ると内情を明かした。

 司会者から「どうですか横倉さん」と医師会長に話を振ると、横倉会長は、困ったような表情で「(日本には)今まで築いてきた長い歴史があるので、急な転換は難しい」と、曖昧に言葉を濁した。

 このやり取りを観ていた視聴者には「医師会は家庭医制度に前向きじゃないな」と受けとめたに違いない。