川崎市に見る、住民が支え合う「地域包括ケア」の理想モデルPhoto:PIXTA

介護保険制度が発足して20年超
人材・財源の確保が課題に

 介護保険制度が発足して20年超。65歳以上の高齢者が人口の30%近くになり利用者は増え続けるなか、財源や専門職の手当てが厳しくなってきた。そこで、国は軽度者はできるだけ居住地域でボランティアなどからサービスを受けてもらい、介護保険を中重度者向けに特化させようとしている。

 とはいえ、地域では担い手の住民の確保がままならない。とりわけ大都会周辺の住宅地では、人間関係が希薄なだけに難しい。

 その中で、神奈川県川崎市宮前区の住民活動が注目を集めている。宅地開発が進んだ人口2万8000の野川地区。田園都市線の鷺沼駅からバスで10分ほど。活動するのはNPO法人「すずの会」の住民ボランティアたちである。

 96歳の長瀬進さんは、急な坂道の途中の一軒家に一人で暮らす。木曜日の昼前。白髪のボランティア、草柳悠紀子さんと食卓に広げた食品のチラシを前に相談の真っ最中だ(写真1)。

川崎市に見る、住民が支え合う「地域包括ケア」の理想モデル写真(1):長瀬さん(左)と相談しながらカタログで注文する草柳さん/筆者撮影

「カステラはありますか」と草柳さんが声を掛けると、「あるよ」と長瀬さん。「オムライスはどう?」「いらない」「明日はとんかつがあるのよね」「そう、みそかつ」

 長瀬さんの好みを聞きながら、草柳さんが注文票に次々書き出していく。チラシは生活協同組合のカタログである。すぐ脇の冷蔵庫を開けながら、長瀬さんが「牛乳はあるな」と確認する。

 この朝、9時にボランティアの草柳さんが自宅から歩いてきた。途中のコンビニで買ったサンドイッチを手にしている。食卓にヨーグルトや果物などとともに並べる。長瀬さんが食事をとり始めると、声をかけ話が弾む。食後、長瀬さんがソファで休んでいる間に、洗濯機を回し、掃除にかかる。2階に上がって洗濯物を干す。終わると、2人で1週間分の食品の注文にかかる。