「できん、できん」言うな。
難しいことを何とかするのが「仕事」や。

 あるいは、キッチンのレイアウト。
 限られたスペースのなかで、従業員がもっとも効率的に仕事ができるようにするためには、どこに何を配置したらよいのか。これを、徹底的に追求しました。
 従業員は、一日に何度も同じ動作を繰り返しますから、ちょっとしたロスが積み重なって大きなロスにつながります。逆に、効率的な動作ラインをレイアウトできれば、より少ない人員で大量の注文に対応できるようになります。

 そのため、かつては新規出店のたびに、自分たちで図面を描いてレイアウトを検討しました。現場の動き方は私たちにしかわかりませんから、外部の人に依頼するわけにはいかなかったのです。慣れない作業ですから、施工直前には何度も徹夜したものです。

 トライ・アンド・エラーの連続でした。
 キッチンが出来上がってから不備に気づき、自分たちの手で水道管をつなぎ直してレイアウトを変更するようなことも何度もありました。清水のチェックも細かかった。冷蔵庫を熱源の近くにおいていれば、こう指摘されます。
「なんで、こんな場所に冷蔵庫を置くんや? これでは、冷蔵庫がすぐに傷んでしまうやろ。買い替えるにもカネがかかるんやから、もっとよく考えなさい」

 ときには、清水に反発したこともありました。

 なにしろ、恵まれた条件の物件に入れるなどということはほとんどありません。「原価率50%」のためには、不動産にお金をかけられないからです。狭かったり、建物の形がいびつだったりして、上手にキッチンのレイアウトができないのです。だから、ついつい、「こんなんじゃ、うまいこといきませんよ」と清水に不満をぶつけてしまう。

 すると、清水はこう応えました。
「できん、できん、言うな。それは、誰でもいえる。難しいことをやり切るために、どうしたらいいかを考えるのが仕事や」