コカインという悪魔
このころから、コカインの入手が難しくなってきた。ラスヴェガスにコカインがなかったわけじゃない。売人たちが提供を渋るようになったんだ。持ってくると言ってもかならず遅れたし、辛抱できずハンバーガー屋で手に入れることもあった。日照り状態はスラム街で始まった。まず、ウエストサイドの酒場がトイレに入れてくれなくなった。次に、売人たちが提供を断るようになった。
「練習に行け、マイク、練習するんだ」と、よく言われた。ヴェガスで俺といっしょに大人になったやつらだ。俺が例の理髪店に何年も入り浸っているのを見て、破滅に手を貸したくないと思ったんだ。そいつらがガキだったころ、ただで七面鳥を分けてやったりしたし、俺に思い入れがあったんだな。
やむをえず、〈ザ・ストリップ〉の白人たちに声をかけた。カジノで客を迎え入れるグリーターやクラブのドアマンたちは、みんなコネを持っていた。
懐が寂しくなってくると、まだ売ってくれていた数少ない売人に無理強いするようになった。ある日、1人の売人が助けを求めてきた。
「なあ、マイク、助けてくれないか? 頼むから、クロコダイル(元タイソンのトレーナーで友人)にカネを払うよう言ってくれ。あいつにコカイン全部渡しちまったんだ」
この話を俺にしたのが運の尽きだ。クロコダイルが払わないなら、俺だってそうしていいはずだ。
「いいとも、クロコダイルに話してやろう。ただし、手持ちのブツを今よこせ」そいつの手からコカインをひったくった。
「まずいよ、ボスに殺されちまう。少しはカネを持ち帰らないと」
「お前のボスは別のやつから回収すりゃあいい」
「まずいよ、あんたからもらわないと」
「なら、俺のところへ相談に来いとボスに言え。おい、人を中毒にさせといて、こんどはカネを請求するのか? 俺はお前ら売人のせいでコカイン中毒になったんだぞ」
カネがなくなると、コカインを扱う大物たちが住むサマリン[ラスヴェガスの西]に車で向かった。彼らの大豪邸で会い、いっしょに写真を撮ったりコカインのラインを作って吸ったり、何時間かいっしょに過ごした。値段を言われたときは、こう切り返す。
「おい、いったいどういうことだ? 本気でこの麻薬を売りつける気か、ブラザー? 1日じゅう俺と遊んでおいて、そのうえまだカネを払わせるのか?」「わかった、持ってけ」と、最後に彼らは言った。
コカインは悪魔だ。その点は疑いの余地がない。俺はずっと女にはフェミニストだった。金欠のときだって夕食代を払わせたことなんて1度もなかったんだ。なのに、コカイン代に事欠くようになると、女友達の落としたカネを拾ってポケットに入れた。あんなみじめな気分はなかったな。これ以上、悪魔と戯れたくなかったが、向こうはまだ戯れたがっていて、これでおしまいと言ってくれない。