史上最強の呼び声も高い天才ボクサー、マイク・タイソン。彼自らが激動の人生を綴った『真相──マイク・タイソン自伝』のハイライトシーンを紹介する連載の第8回(最終回)。
ぼろぼろの状態で挑んだ最後の世界戦にも惨敗したタイソンは、ついにボクシングを引退。荒んだ生活の中で、アルコールと麻薬に身体と精神と人生を蝕まれていった──。
ラスヴェガスでの放蕩
2005年8月末、ラスヴェガスの〈アラジン・ホテル&カジノ〉でボクシングの公開練習をやった。あれはおいしい仕事だった。ホテルから立派なスイートをあてがわれ、ボクシング用リングを設置した部屋で練習していると、カネを払ってくれたんだ。ホテルを通り抜けていく何千人もの人たちが、スパーリングをしたりヘビーバッグを叩いている俺を見ていった。好きな食べ物をなんでも無料でもらえたから、いろんな友達を呼んだ。
1966年生まれ。アメリカ合衆国の元プロボクサー。1986年にWBCヘビー級王座を獲得、史上最年少のヘビー級チャンピオンとなる。その後WBA、IBFのタイトルを得てヘビー級3団体統一チャンピオンとして君臨。しかし2003年に暴行罪によって有罪判決を受けるなど数々のトラブルを巻き起こし、ボクシング界から引退。アルコール・麻薬・セックス中毒のどん底状態から過去の自分を反省し、自己の人生を語るワンマンショーで成功を収め、新たな幸せと尊敬を得る。2011年、国際ボクシング殿堂入りを果たす。2013年に『真相:マイク・タイソン自伝』を上梓。写真は最後の世界戦となったレノックス・ルイス戦の前の控室で息子ミゲルと。(Photo:© Neil Leifer/Sports Illustrated/Getti Images)
「会いに来いよ。ここに1ヵ月いるんだ。何を注文しても売女(ビッチ)持ちだぞ、兄弟(ニッガ)」
このときはホテルを“ビッチ”と呼んでいた。ホテルのヒモになった気分だったのさ。
R&B歌手のボビー・ブラウンがヴェガスにいたから、当時ボビーが付き合っていたカリン・ステファンズ(別名スーパーヘッド)といっしょに招待した。カリンとは、遊び半分に付き合ったことがある仲だ。
ボビーは彼女に本気だったらしく、父親と友人たちも呼んでいた。先に着いた彼らを、俺は手厚くもてなした。そのあとボビーがやってきたから、下のロビーで出迎え、エレベーターに乗った。俺たち2人がいっしょにいるのを客たちが見て大騒ぎになった。ある夫婦の奥さんなんか、「うわっ、すごいわ、マイク・タイソンとボビー・ブラウンよ。あの2人がいっしょにいるなんて、絶対何かあるわよ、あなた」と言っていた。俺たちがトラブルの種なのを知っていたんだな。
ボビーには、しばらくいっしょに遊んでいってほしかった。ボビーと遊ぶのは最高だった。ホイットニー・ヒューストンと結婚して以来――当然といえば当然だが――彼女は絶対、俺と遊ばせてくれなかったからな。